不定期な休みの仕事なので、一日だけの公演が基本の能や狂言よりは、ある一定の期間ずーっと公演している文楽や歌舞伎の方が見に行きやすいということに気付きました(笑)
と書きましたが、まさに今月がその通り。そんなわけで、国立文楽劇場へ文楽鑑賞教室を見に行きました。後で気付いたのですが、同じ日に大学の後輩が来ていたそうで。ただし午前の部と午後の部ですれ違い(苦笑) 知っていたら時間合わせたんですけれどね。どうせなら知り合いと一緒に見て、感想を言いあったりするのが私は好きです。
ちなみに私は文楽を見る時はいつも2等席。能や狂言でもそうですが、私はあまり席には拘らないんですよね。それより安さがポイントだったり(笑) 文楽では最後列か、もしくはその1列前ばかりだったのが、今回の観賞教室は全席同額。というわけで、今までにない前でした。といっても10列目ですが(笑) それより前の席は学校から来てる小学生が占領していました。
第23回文楽鑑賞教室
◆6月20日(火)10時半~ 於・国立文楽劇場
★『五条橋』
牛若=豊竹睦大夫 弁慶=竹本文字栄大夫
竹本相子大夫 豊竹芳穂大夫 豊竹希大夫
鶴澤清志郎 鶴澤清丈 豊澤龍聿 豊澤龍爾
牛若=吉田一輔 弁慶=桐竹亀次
★解説「文楽へようこそ」
豊竹つばさ大夫 豊澤龍聿 吉田勘市
★『新版歌祭文』野崎村の段
中 豊竹咲甫大夫 竹澤団吾
前 竹本三輪大夫 野澤喜一朗
後 竹本文字久大夫 野澤錦糸 (ツレ)鶴澤清馗
娘おみつ=吉田玉英
手代小助=吉田玉佳
丁稚久松=吉田勘緑
親久作=桐竹勘十郎
下女およし=吉田簑一郎
娘お染=吉田和右
駕籠屋=桐竹紋秀・吉田玉翔
母お勝=吉田清三郎
船頭=吉田文哉
文楽の役者さんの名前はまだほとんど分かりませんが、とりあえず書いておきます。書くことで覚えられるかもしれませんし。
『五条橋』は、能でいうと『橋弁慶』の後場。弁慶と牛若(後の源義経)が五条橋で戦い、降参した弁慶が牛若の部下になるという話。実際、能『橋弁慶』の詞章と同じ部分も多いので、参考にして作られたのだと思います。
太夫や三味線がたくさん並び、掛け合いで進んで行く賑やかな演目。牛若は歌舞伎では女形が演じることもあるそうですが、文楽でも女性のような語り方がされてました。だいたい最初は「橋のほとりの青柳の糸より細き腰付きにて、すつくと立つたる女姿、傘傾けて面映ゆぶり」という姿で登場するわけですしね。
「薙鎌、鉄の棒、才槌、鋸、マサカリ、さす股」「大薙刀」の七ツ道具をズラズラと持っている弁慶は新鮮。江戸時代の絵なんて見ると、七ツ道具で弁慶を示すことがあるぐらいなんですけれど、私の弁慶のイメージは能の弁慶ですから、扇か長刀のどちらかしか持ってないバージョン(笑) 狂言『朝比奈』で、シテの朝比奈義秀が七ツ道具を持ってるらしいですけれど(←未見)。
牛若は傘や扇で弁慶を圧倒したり、斬ってきた長刀の上に乗ったり、派手でしたが、斬合の割にあまり気迫が感じられない気も。『勧進帳』でも似た印象を持ちましたが、能と同じつもりで見ているからかもしれません。『菅原伝授手習鑑』車曳の段に登場した、藤原時平はインパクトありましたけど。
最後は「主従三世の縁の綱、約束長き五条の橋、橋弁慶と末の世に、語り伝へて絵にも書き、祇園祭の山鉾にも祝ひ飾るぞ目出たけれ」。そういや、去年祇園祭の宵山に、ビール片手に橋弁慶山を見に行ったなあ…と思いだした私でした(笑)
次の「文楽へようこそ」は太夫・三味線・人形遣いのそれぞれの方が、実演を交えた解説。太夫の豊竹つばさ大夫さんはちょっと堅くなりながら、舞台の解説や『伽羅先代萩』の子役の語り方の違いなど。前に桂米朝さんの落語に関連して書いた”えげつない”笑い声も実演してましたが、演目の中で雰囲気の盛り上がった中でするから良いけれど、笑い声だけの実演は不気味です(笑)
三味線の豊澤龍聿さんは三味線を分解したり、文楽で使う太棹三味線と他の芸能で使う細棹三味線を弾き比べたり。「この胴はある動物の皮でできてるんですが、何でしょう?」「今から演奏するのはとある動物の動きを表現したものなんですが…」とクイズ形式で進めたので、前列の小学生には大受け。「猿!」「ライオン!」と賑やかな中に、ちょっと知ってる子なのか「猫」の声。しかし答えは「猫のもあるんですが、この三味線は犬です」とのことでした(笑)
人形の吉田勘市さん。主に女性の人形を遣いながら、ユーモアたっぷり(女性の人形には足がないということを裾を開いて見せ、その後に「まあはしたない」と入れたり等)に解説下さいました。しかし竹本義太夫や近松門左衛門が生きていた時代には一人遣いの人形が使われていた、というのは意外。人形浄瑠璃も時代の中で変遷を重ねて今に至っているんですね。
最後には客から三人、実際に人形を使う体験コーナーでした。事前に聞いていたので狙ってましたが、前列の小学生が多数手を上げたので、大人しく引き下がります。いくら私でも、ねぇ(笑) しかし、素人人形遣いの三人。まず手を打ち合わせようにも、左右の手が合わない、歩いている内にドンドン人形の位置が下がって行くなど、珍芸を披露してくれました。本人たちは必死だけに、見てる側は面白い(笑)
しかし舞台中はストイックなまでに、言葉を発しない三味線や人形遣いの方が解説が流暢なので、妙な感心をしてしまいました。
『新版歌祭文』野崎村の段。あらすじは複雑なので、知りたい人はこちらを参照願います。
なんか名前だけ聞いた覚えがあるなあ、と思っていたところ、最後にお染と久松が船と駕籠に分かれて大坂で戻る場面。これ、歌舞伎の映像で花道を二つ使って演じられてるのを見た覚えがあるんですね。
主人公はお染と久松なんでしょうが、むしろ、おみつが可愛らしい。嬉しくてせっせと大根を切ったり、鏡に映ったお染の姿を嫉妬で思わず打ったり。久作や久松が戻ってくるとそちらを相手しつつも、後ろをチラチラ気にし続ける。戸に箒を立て掛けて、開けると落ちるようにするなのは…どこの小学生のイタズラやねんと思ったり(笑) 最後は、久作の頭にお灸をしてしまいます。完全にコメディですが、好きだなぁ、こういうの。
でもその分、最後に好きな久松のために尼になって身を引く…というのが、ちょっと素直過ぎる感じもします。他の段も続けてみれば印象も違うのかもしれませんが、久松はずっとただ受動的に動くだけで、全然魅力的に見えないものですから、おみつがそうしなきゃいけない理由が分からない。男でいうなら、むしろ久作がカッコ良かった。
最後、お染が乗った船と久松が乗った駕籠が大坂に戻っていく場面では、船頭が大活躍。川に落ちても、飛び泳いで船に戻ったり、賑やかで楽しい。パンフレットによると見どころの一つらしいですが、私にはテーマが分散してしまうので、ないほうが良いような気もするんですけれどね。
ところで、最初に登場する小助が何度も「かね」という言葉を繰り返すのですが、床本では「銀」。そういえば江戸時代は「大坂の銀遣い、江戸の金遣い」といって、大坂では専ら銀が通貨として使われていたんでしたよね。それがこんなところに反映していると思うと興味深いです。
しかし金の小判のように一枚一両と決まっているわけではなくて、銀は重さを量って使う「秤量貨幣」だったので、面倒だったと思います(笑) しかも小判の改鋳(銀を含む量を変える)に併せて交換レートが変わる、いわゆる「変動相場制」だったとか。4枚で1両になる”一分銀”が登場するのは幕末の話だそうです。
■関連記事
→かえでの徒然雑記: 文楽鑑賞教室
私も22日に鑑賞教室に参りました
大阪の文楽劇場にはじめて伺いましたが
能楽堂とはまったく違った雰囲気で
楽しく拝見致しました
ここのところ私も
ゆげひさんと同じようなところに
出没していますけれど
互いに相手を知らない・・・
「君の名は」みたい
ちょっと古かったかあ
amiさま、ゆげひさま
鑑賞教室楽しまれたみたいですね♪
能と違って文楽は解説のある公演がたくさん
ありますので、みなさんお上手ですよ。
それぞれ工夫をなさっています。
龍聿さんの今回の解説は2度聞きましたけど
少し変えていらっしゃいました。
しゃもじと団扇は出てきませんでしたか?
すべったからなぁ(笑)
野崎村の段は何度見てもいいです!!
名作だからでしょうね。
★amiさん
私の文楽鑑賞はやっと4~5度ぐらいですが、
能楽堂とは雰囲気違いますよね~。
インカム付けた案内の方とか(笑)
字幕がびっくりしました。
確かに同じようなところに出没されてますね。
「君の名は」、一応知識としては知ってますよ~。
見たことはないんですけれどね。
★かえでさん
今まで本公演ばかり行っていたので、
解説付の公演は初めて。改めて知ることが多くて
とっても楽しめました。
豊澤龍聿さんの解説にしゃもじと団扇!?
出てきませんでしたよ。
そのバージョンが気になります(笑)
「新版歌祭文」という名前より
「野崎村」の方が通るみたいですね。
先日四条畷に行く用事があったのですが、すぐ隣の駅が野崎で、
うわー今度来ようと思ったものです(笑)