壽 新春大歌舞伎 夜の部 於・大阪松竹座(大阪市中央区)
少し前の話なんですが、3度目の歌舞伎観劇です。前回が能がかりの演目が並んだ会だったので、今回は「まさに歌舞伎」という演目を見ようと思い、『仮名手本忠臣蔵』狙いで見に行きました。『仮名手本忠臣蔵』は日本史で習ったのか、ともかく歌舞伎を知ろうと思う以前から知ってる演目名なので、私にとっては「まさに歌舞伎」というイメージなんですよね。思い込みかもしれませんけど(笑)
★『神霊矢口渡』
お舟=片岡孝太郎 頓兵衛=坂東弥十郎
新田義峯=坂東薪車 傾城うてな=市川春猿 六蔵=市川猿弥
まず最初の『神霊矢口渡』。これがとても楽しかったです。新田義貞の息子・義峯が、再起を図って東国に向かう途中の話なんですが、矢口の渡守の娘・お舟が義峯に一目惚れする辺りのことがコメディっぽく演じられてました。コメディっぽいので、惚れて義峯に迫るような部分もあまり図々しいという感じず、可愛いという印象だったわけで、上手いですよね。
そしてお舟の父親で、義峯の兄・義興を殺して大金持ちになったという頓兵衛の悪役っぷりがまた良いんです。義峯と間違ってお舟に刀を突き刺してしまっても、悔やむどころか、お舟を突き退けて義峯を追って行く。「いかにも」な娘と「いかにも」な悪役。分かり易い話でした。浄瑠璃の語りも声がステキ。舞台がぐるっと廻って、舞台展開するのも初めて見ました。派手で良いですね
★通し狂言『假名手本忠臣蔵』
浄瑠璃 道行旅路の花聟・落人
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
同 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
早野勘平=片岡仁左衛門 腰元おかる=坂東玉三郎
鷺坂伴内=市川猿弥
与市兵衛=市川寿猿 斧定九郎=片岡愛之助
一文字屋お才=市川笑三郎 女房おかや=坂東竹三郎
千崎弥五郎=市川段治郎 不破数右衛門=坂東弥十郎
次の『假名手本忠臣蔵』で今回演じられたのは、早野勘平を主人公にした部分。勘平は腰元のおかるとの恋愛が元で、討入りに参加できずに切腹して果てる人物なんですが、舅にあたる与市兵衛を殺してしまったと思い込むことが最大のポイントになります。しかし、見ている側は、先の五段目で与市兵衛を殺したのはならず者の斧定九郎で、勘平が殺してしまったのは実は斧定九郎であることが分かっていますし、また悪人なら殺しても良いのかなんて思ってしまい、今ひとつ勘平には感情移入できませんでした。
結果としては勘平は舅の仇を討っているわけですが、討とうとして討ったわけではなく、仕事の狩りの最中、イノシシを狙って撃った弾が斧定九郎に当たる。完全な業務上過失致死。…勘平役の片岡仁左衛門さんの演技は哀れではありましたけれど、理屈として納得できませんでした。
むしろ良かったのは、夫を殺されたと思って、勘平を散々に打ち据える女房おかやの坂東竹三郎さん。前回の『隅田川』の船頭も良かったし、私の中で注目役者です(笑) それから、いかにも人の良さそうな与市兵衛を演じた市川寿猿さんと、無情にも与市兵衛を殺して五十両を奪う斧定九郎を演じた片岡愛之助さんが良かったです。特に愛之助さん、たった一言だったセリフ「五十両」が効いてました。
楽しみにしていた坂東玉三郎さんは今ひとつ出番が少なくて残念でした。「道行」で、仁左衛門さんと2人で存分に踊っていたといえばそうなんですが、私、歌舞伎舞踊は大の苦手らしくて…意識がどこか飛んでました
★『春調娘七種』
曽我五郎=市川猿弥 曽我十郎=市川段治郎 静御前=市川春猿
最後は『春調娘七種』。曽我十郎・五郎の兄弟と、なぜか静御前が一緒に舞う舞踊です。舞踊は苦手ですが、後ろに並んだ囃子などで楽しめました。短かったですしね。清々しい水色の裃に十郎は鶴、五郎は蝶が描かれていて、正月らしい衣装でした。静御前は真っ赤な歌舞伎の”姫”って感じ。静御前と聞いてどこか能装束姿をイメージしていた私には、ちょっと意外。つくづく自分って能楽ジャンキーだと感じました(笑)
囃子ではどうしてもお稽古を受けている関係で大鼓を凝視してしまいますが、歌舞伎の大鼓はリズムで打っている感じがして、強いコミを取る能とは違うなぁ、と思いました。あと曽我兄弟が舞の道具として鼓を持つのですが、解説には五郎が大鼓、十郎が小鼓を持つとあったのに、どう見ても両方とも小鼓だったのが気になって仕方なかったです(笑)
いろいろ書きましたが、これでも全体としては楽しむことができました。ただ、片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんは今ひとつ味わえなかったなぁ、と。また、次の機会も得たいものです。
ところで今回、悲劇がメインの歌舞伎を見て少し思ったこと。気持ちが舞台上での演技に同調しようとしたところで、屋号の掛け声や拍手が入ります。…そういったものを聞くと、今見ているものが「演技」つまり「作り物」であることを確認させられて、一気に醒めるように感じるんですけれど…。
「それが歌舞伎だ」と言われればそれまでで、新参者のたわ言に過ぎないわけですが、静かな演技の部分は静かに見て楽しみたいって思うのは変なことでしょうか?
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→地獄ごくらくdiary:壽初春大歌舞伎
→(-_-φ:壽 初春大歌舞伎 夜の部/松竹座
松竹座ご覧になられてきたのですね!!(^^)行かれるのはどちらかな?と思っていたら夜の部でしたのね。
<<討とうとして討ったわけではなく、仕事の狩りの最中、イノシシを狙って撃った弾が斧定九郎に当たる。完全な業務上過失致死。
確かに(笑)私も・・何ですぐに死ぬんだぁ!しかも勘平さんが死ぬ直前に傷口検証・・・。何で殺されたか調べてほしいわ・・と思ったりして・・(^^;
愛之助さんが定九郎だったんですね!!「五十両」しか台詞がないけど、なかなか・・・な役だと思います。新之助(現・海老蔵)の定九郎で見たことあるんですが、その時は一番前のど真ん中で見てしまいまして(地方巡業だったんで取れたんです・・・)ご本人の気迫ある目のせいもあるかと思いますが、本気で「怖い」と思いました(笑)
チケットを買う時に昼の部と夜の部、どちらにしようかな、と
思ったんですが、『仮名手本忠臣蔵』の演目名にフラフラと…。
何せ初心者なもので、演目名に見覚えがあるだけでも嬉しいんです。
勘平が腹を切ろうとするのはともかく、何故あのタイミング?とは
思ってしまいますね。遺体を運んできた猟師たちも、仕事道具ですから
銃傷かどうかぐらいは判別できそうな気もしますし(笑)←ツッコミまくり
斧定九郎の役、短いですがインパクトのある役ですね。
市川海老蔵さんが斧定九郎で睨み付けてきたら、そりゃ怖いと思います(笑)
お久しぶりです。
今年もよろしくお願いします。
僕もこの公演見に行きました。
目当ては仁左衛門と玉三郎の共演です。
日帰りで昼夜両方とも見てきたんですが、夜は交通機関の関係で「道行」だけ見て帰りました。
でも十分満足できました。
昼の「十六夜清心」では仁左衛門と玉三郎の純愛の場面から一転、悪に手を染めるところを描いているので、ご両人の両極端な演技を楽しむことができました。
ご両人ともどちらの役柄も味があってよかったですよ。
また「義賢最期」では、立回りで愛之助の歌舞伎版仏倒れが見れました。
これにはびっくりしました。
さすが歌舞伎、見せてくれます。
これを約1か月間続けるんですから大したもんです(失礼)。
というわけで、昼の部、おすすめです。
機会があったらご覧になってみては?
もっこすさん、お久しぶりです。
歌舞伎も見られるんですね~。
しかも福岡から日帰り遠征して。凄い!
番附を見る限り、昼の『十六夜清心』も面白そうだなぁ~と
思ったりするんですが、今月の観劇代が高くついているので
もう無理です(汗) 次の歌舞伎はまた今度と…。
そうなんですよね、歌舞伎ってあの演技を1ヶ月続けるんですから
凄いですよね。1日興行の能・狂言に慣れているとますます(笑)
柏木ゆげひさま
リンクしていただいてありがとうございました。
「神霊矢口渡」楽しかったですね。他の人のお舟を観たことがないのですが、あの味は孝太郎さんならではという感じでした。
私は仁左衛門さんが大好きで、ああいったタイプの演目の時は大てい涙、ナミダってことになってしまうのですが、ゆげひさまのご感想を読ませていただいて、「ナルホド、そういう見方もあるなぁ」と感じ入った次第です。これに懲りずにまた歌舞伎もご覧になって、感想を聞かせてくださいね。
久しぶりに掲示板に書かせていただいたついでにこちらにも初めてお邪魔いたします。
大阪松竹座、行かれたのですね、羨ましい。
その日は観世蛍雪会を観に行くために、心の中で、大阪まで乗って行っちゃおうかな…などと思いつつ新幹線を京都駅下車。
お能を観るようになったのは、歌舞伎ファン仲間に狂言を習っている人がいたのがきっかけなんです。
それが大好きな役者さんが出ている舞台を蹴って、能楽堂に行っている今日この頃の自分って…(涙)
お能は地元で手軽に観られますから、ちょくちょく行くようになり、気づけば歌舞伎遠征に行くお金はどこ?しかも、能遠征してるし…。
ということで、松竹座は観に行かれた方の感想を見聞きして我慢しています。
思いがけなく柏木さんの感想も拝見できて嬉しかったです。
大向こうさんの掛け声、お上手な方だといい感じに盛り上がるんですが、…な人だとぶち壊しですよね。
慣れてくると、掛け声ってないと淋しいし、難しいものです。
しかし、今日も入れて楽日まであと3日あるな…
リンク&コメントありがとうございます(^^)
玉三郎さんは昼の部「十六夜清心」で存分に役柄を楽しんでおられる感がありますよ。観劇代のことを考えると二の足を踏んでしまいますが見る価値はあるかと・・・(*^m^*)
大向こうさんの声、わたしが夜の部を観劇した時は誰もいなくて、少々、さみしく感じました。感じ方は人それぞれ、杜若さまがおっしゃっているように難しいものですね。
★スキップさん
コメントありがとうございます。
歌舞伎は初めて見るものばかりなんで、読み返して見ると
文句ばかり言っているようですが、これでも楽しんでいるんです(笑)
松竹座を出て思ったのは、歌舞伎って凄いなぁ、ということでしたから。
今回は片岡仁左衛門さんの演技そのものというよりも、
他の要素にちょっと引っかかってしまいました…。
年末にNHKで放送されていた、中村勘三郎襲名披露公演の
『一條大蔵譚』での仁左衛門さんはカッコよかったですし、
また機会をみて、見に行きたいと思います。
★杜若さん
初コメントありがとうございます。
あ、ややこしくて申し訳ないのですが、この日記の日付は
「書いた日」でして、実際に見に行た日とはズレがあります。
23日の日記に書いた通り、21日は若手能大阪公演を見てました。
京都観世蛍雪能と、微妙に演目がかぶってます…『高砂』&『項羽』(笑)
まあ、歌舞伎に慣れてないのと、能でも何でも静かなものを見ていると、
拍手の類が嫌いだっていう私の好みの問題のようですね。
基本的に私、派手しないんですよ~能でも狂言でも。
★umakoさん
坂東玉三郎さんが『十六夜清心』で存分に役柄を楽しんで…
うう、見たい…ですが、お金と時間がありません(^^;)
26日千穐楽ですから。
来月終わりぐらいまでやってくれたら見に行けるんですが(んな無茶な)
大向こうの声ですが、上手く決まると盛り上がる、というのは分かります。
初めての歌舞伎観劇で見た『義経千本桜』の川連法眼館の時などは
私も気持ち良く聞いてました(^^) まあ、慣れの問題もあると思います~。
私は「仮名手本忠臣蔵」といえば「文楽」です(笑)
今回は5段目6段目。
悩みましたが、仁左さん玉三郎さんなので参りました。
が、この段では歌舞伎より文楽の方が見やすいと思います。
好みかもしれませんけど(^^;)
仁左さんなのに泣けませんでしたしね。
文楽ではいつも号泣しております(汗)
お昼の部のほうがお二人を堪能できた感じですね。
大向こうさんの掛け声、私もはっきり言って迷惑です。
同じところで何人もかけるでしょう?
ひとりでええやんって思っちゃいますもの(^0^)
でも能と違って、庶民の娯楽の芸能だったから
やっぱり、この習慣は永遠に続いていくのでしょうね。
かえでさん、こんにちは。
辞書で『仮名手本忠臣蔵』を引いたら
「人形浄瑠璃の一」「1748年竹本座初演」とあって、
オリジナルは文楽なんですね。
まあ、「初演後すぐに歌舞伎にも移された」とあり、
さらに「人形浄瑠璃・歌舞伎の代表的演目」だそうなので
私の認識も間違ってなさそうですけれど…。
あ、私の好みなんですが、能と歌舞伎を対比して
上流階級と庶民、というのは好きじゃないんです…。
江戸時代でも、五流以外の"素人"役者が歌舞伎ほかと
混ざってはいるんですが、辻能を時々催していたみたいですし、
庶民と能との関わりは割とあったみたいなんで。
もちろん、庶民芸能の代表が歌舞伎だったことは動かないんですけど。
文楽や落語だって"庶民の芸能"なのに、
別に大向こうのような掛け声はないですし(笑)
文字にすると言葉たらずでどうもいけませんわね。
誤解を生む書き方になってしまったようです。
能と歌舞伎、上流階級と庶民を比較して書いたのでは
ありませんので。失礼致しました。
こちらこそ、すみません。
なんだか責めてしまうような書き方で。
申し訳ありませんでした。