松風村雨堂の記事へamiさんが下さったコメントへのお返事で、ある程度書いているのですが、神戸市立博物館で催されていた「江戸の誘惑」展に誘惑されに行きました。アメリカのボストン美術館に所蔵されている肉筆浮世絵の展覧会です。…大阪在住になったのに、なんだか神戸にばかり行ってますね、私(笑)
和服を来ていくと入場料半額と聞いたので、しっかり着物で行く私。ただ完全な夏物を着ていたので、着物に詳しい方には噴飯ものな格好だったかも…だから具体的な格好は伏せます(笑)
ツレは「大絵巻展」の時と同じ中学以来の友人。一人で博物館や美術館の展示に行くのは心の赴くままにも見れて良いですが、同系統に興味のある友人と一緒に右見るのも楽しいものですね。特に彼は前々から浮世絵などが好きなので、心強かったです。
展示品には菱川師宣・喜多川歌麿・葛飾北斎・歌川広重…江戸時代の美術には疎い私でも、聞いたことのある名前がズラリ。ただ「大絵巻展」の時に書いたように、絵自体の良し悪しが今ひとつ分からない私は、描かれた風俗に興味を持ってみていました。この絵に登場する人たちが、どんな着物を着て、どんなことが行われているのか。この場面はどういう雰囲気の場所なのか。
そういう意味で一番楽しめたのが菱川師宣の「芝居町・遊里図屏風」。片面の遊里図では、太夫(最高位の遊女)が禿(侍女)を引き連れて練り歩き、それをぽかんと見ている男たち。時代劇でよく見る、格子の向こうから声をかける遊女たちとその前に立ち止まる男。奥の座敷では小鼓と三味線、手拍子に合わせて舞う芸者がいて、それを脇息にもたれかかって見ている金持ちそうな人物がいます。
一方の芝居町図には芝居小屋・中村座の様子。「猿若勘三郎」の看板が立つ入り口の横には客引きが台座の上に立って、道行く人に呼びかけてます。舞台上では男役女役、様々な格好をした役者たちが列を作って、右手の三味線奏者の方へ踊りながら進んでいます。看板には「四季大おどり」と書いてあるように思います。奥には鎧を着たり、鬘をつけたりしている役者の姿が描かれていて、舞台裏のようです。各場面を分ける雲はもちろん、地面の色もひたすら金箔で表されていて、いかにも華やかな屏風でした。
歌舞伎の看板などの展示もあり、浮世絵と歌舞伎のつながりの深さを感じました。役者絵は三代目中村歌右衛門。前に行った「大坂歌舞伎展」で紹介されていた片方の主役です。前に見た上方の役者絵は素人画家によるものでしたが、こちらは江戸のプロ絵師・歌川豊国によるもの。三代目歌右衛門は江戸に下って5年間中村座で活躍したそうですから、その時のものでしょう。江戸から上方に戻る時には、200人もの見送り人が出、贔屓連中や七代目市川團十郎からの餞別の多さが評判になったといいます。
最後の展示室には「古典への憧れ」と題して、見立絵が多く展示されていました。見立とは、中国や日本の物語や伝承、故事などに取材して、それを江戸時代の風俗にやつして表現すること。能に関わるものが多く、『草子洗小町』『羅生門』『江口』『石橋』『松風』『高砂』『砧』などがありました。
見立はただ江戸時代の風俗にやつすだけではなくて、アレンジも行われてます。例えば『高砂』では熊手と箒を持った尉と姥のはずが、まだ前髪のある若侍と娘になっていたりと。でも、寺子屋などで教科書代わりに謡や浄瑠璃も使われていたそうですから、庶民もこういった”ひねり”が加えられた絵でも楽しむことができたらしいです。うーん、侮るなかれ江戸時代人の教養、ですね。
それから楽しみにしていたのが、葛飾北斎の「朱鍾馗図幟」! 鍾馗は能にも登場しますが(能『鍾馗』『皇帝』)、魔除けの神のようなもの。日本では5月5日の端午の節句に幟が立てられて、子どもの健やかな成長を祈ったそうですが、その風習に思いを巡らして楽しいものとなりました。描かれている鍾馗は、力強くもどこかひょうきんな感じが良いですね。朱色は疱瘡除けの意味があるそうです。
あと印象に残っているのが、女性の舞踊を描いた勝川春章の「石橋図」。躍動感があって好きです。能『望月』でも使われる、扇を二つ重ねて獅子の口を表現する様子もツボ。
それから最後に展示されていた菱川師宣および菱川派の「変化図巻」妖怪図&鳥山石燕の「百鬼夜行図巻」といった妖怪絵。菱川派の「変化図巻」は、様々な妖怪変化の姿を楽しんで書いたのかな?と思うような見ていて楽しい絵巻でしたし、鳥山石燕は京極夏彦さんの小説本で良く見るうちに好きになった絵師でした。その生の絵が見れて幸せ。いろんな妖怪が描かれていますが、犬神と山姥が特に良かったです。今ちょうど大鼓で『山姥』の稽古をしていますし、イメージのひとつとして心に留めておきましょう(^^)
70点もの展示を見終わると、さすがに疲れました。でも見に行ってホント良かったです。でも足が疲れて、さすがにゆっくり腰を下ろして休みたい。朝始めから行って、昼過ぎになってましたから、お腹もそろそろ空いてきた頃合。そんなわけで近くの南京町へ行き、美味しい中華料理を食べながら休憩しました。
神戸展はもう28日で終わってしまいましたが、この後、名古屋展が6月17日(土)~8月27日(日)まで名古屋ボストン美術館にて、東京展が10月21日(土)~12月10日(日)まで江戸東京博物館にて催される予定ですので、興味のある方は是非覗いてみてください。
私も見に行きました!
和服を着て行ったら半額なので、張り切っていましたが、雨だったので断念しましたが・・・(^_^;
私も江戸の人々の教養の深さには、驚かされました。
今よりもずっと知的な遊び方・楽しみ方があったのですねぇ。
絵の中は、ゆったりとした時間が流れているようで、
ちょっと羨ましくなりました。
余計な一言ですが、本文中に「三代目中村吉右衛門」とありますが、三代目の吉右衛門さんはまだいらっしゃいません。当代の吉右衛門さんはまだ二代目です。「三代目中村歌右衛門」の間違いではないでしょうか。
気になりましたもので…。失礼いたしました。
★さおりさん
さおりさんも誘惑されに行ったのですか!(笑)
着物を着て行けなくて、残念でしたね。
雨の日が多かったですから、私も行く予定の日に雨が降ったら
どうしようかと心配していたので、幸いにも晴れて良かったです。
確かに私も絵の中の人々にはゆったりとした時間が
過ぎているように感じました。
杉浦日向子さんのエッセイによると
江戸っ子はあんまり働かなくても生きていけたらしいですし(笑)
実に羨ましい話です。
★hikariさん
初めまして。
"吉"右衛門と"歌"右衛門、単純な名前の間違いです。
ご指摘ありがとうございました。
歌舞伎にはまだまだ疎く、こんな間違いをしてしまいました。
確認したつもりでしたが、
自分で思い込んでいることの確認とは難しい物ですね。
ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展『江戸の誘惑』
京都巡りの記事はちょっとお休み。今日は神戸市立博物館に「江戸の誘惑」と題された浮世絵の展覧会を見に行ってきました。
私は西洋の絵画展は好きで時々見に行くけど、日本美術には
こんばんは、先日はコメント&TBどうもありがとうございましたm(_ _)m
遊女の風俗はほんとに興味深かったですよね。
特に彼女たちの豪華で粋な着物の柄に見入ってしまいました。
芝居小屋のにぎやかな様子も印象深かったです。
能楽は、恥ずかしながら全然知識がないのですが
最近室町時代に関する本をいくつか読んでいるので
世阿弥&彼の一族に興味が湧いてきています。
またHPの方で勉強させてもらいますね!
gungnir25さん、初めまして。
コメントありがとうございます~。
着物の柄のことは分からないなりに見入ってました。
本当にこんな柄があったのかな、なんて思いながら。
昔の芝居小屋というのも楽しそうで良いですよね。
能楽は、少々特殊な分野ですから(笑)
私も以前はこんなにハマりこむなんて思いもしませんでした。
世阿弥周辺にもいろいろ面白い話ありますよね。
足利義教が世阿弥を佐渡配流にするのですが、
その辺りの話を考えるのも楽しいです。
私もGWまっただ中に行ってきました。
たまたま梅田で前売り券をgetして行ったのですが、当日券売り場の前は長蛇の列でした。(-_-;)
入り口のところの記念撮影用の看板とか、ところどころに配置されたオブジェとか、けっこうツボにはまったところが多かったです。
帰りにしっかり勝川春草の「見立て江口の図」のクリアファイルを買って帰ってしまいました。f^^;)
「江戸の誘惑」展
神戸市立博物館では「江戸の誘惑」展が開催されてます。
たまたま梅田で前売り券をgetしてから行ったんだけど、博物館に着いてびっくり。
何と、当日券を買うのに長蛇の列
買っておいてよかったぁ~
で、中に入ると大きな看板があって、「記念撮影用」となってま
GW中はさぞかしこんでいたことかと思います。
着物半額は当日券のみだったので、長蛇の列に並びましたよ。
記念撮影用の看板は写真撮ったんですけれど、
あまり出来が良くなかったので載せませんでした(笑)
ところどころに配置されたオブジェって、絵を取り出して
人間大に拡大したものですよね。あれは面白かったです(^^)
クリアファイルは…欲しいとは思うんですけれど、
好きな絵ほど使って汚くするのが嫌なのでジレンマです(笑)
『江戸の誘惑』(名古屋ボストン美術館)
肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」 (於:名古屋ボストン美術館)へ行ってきました。 (朝
TBありがとうございました。
こちらからも送らせていただきました。
『石橋図』よかったですよね~。
私もあの絵は好きです!
『石橋図』、良いですよね~。
先日に能の『望月』を見て、
あわてて家に帰って図録で『石橋図』を見てしまいました(笑)
続『江戸の誘惑』(名古屋ボストン美術館)
「江戸の誘惑~肉筆浮世絵展」(名古屋ボストン美術館)へ再び行ってきました。(朝
[名古屋イベント]肉筆浮世絵展 江戸の誘惑
先週行ってきました、魅惑の浮世絵展!
なんと日本初公開のものばかりなのです!
しかも、肉筆浮世絵は、注文制作によって1点だけ特別に描かれた「特注品」!
そう、世界に一つだけしか存在しない浮世絵なのです!
もう大
初めまして、こんにちは。コメント&TBさせていただきました。
浮世絵展「江戸の誘惑」の感想を探していたおり、こちらのブログに辿り着きました。
自分は名古屋にて観ることができました。
生の浮世絵の迫力にただただ圧倒され、見惚れてしまいました。
自分も葛飾北斎先生の「朱鍾馗図幟」でビビビッときました!(笑)
すごい迫力でしたよね!5分くらいは見入ってしまいました。
東京にも是非行こうと思っております。
柚木さんは能や狂言をよく観ていらっしゃるようで、大変羨ましいです。
(関西は京都が近くて色々観れそうですよね)
自分のオススメは、茂山一家さん(http://www.soja.gr.jp/)の狂言がわかりやすくて、おまけに面白くて、とても楽しめました。
サイトも覗かせていただきます。
長文・駄文、失礼しました。
★ワビサビわさびさん
初めまして。コメントとTBありがとうございます。
やはり生の浮世絵というのは凄いですね。
私もじっと見惚れたり、良いなぁと思いながら見てました。
葛飾北斎の「朱鍾馗図幟」は、NHKの日曜美術館でも
紹介されていたんですよね。そこから興味を抱きました。
私が能や狂言を見るのは、主に大阪で、京都や神戸にも
行くという感じです。名古屋でも名古屋能楽堂や
豊田市能楽堂で、公演が行われてますよ。
茂山千五郎家は京都の家なので、割と見る機会も多いです。