『義経記』に見える平家の怨霊

『義経記』船弁慶・挿絵

「能のことばを読んでみる会」《船弁慶》に向けて、室町時代に成立した軍記『義経記』の重なる部分を読んでみました。

能《船弁慶》と同様に、都落ちした義経一行が西へ向けて船出すると嵐を起きるのですが、弁慶が

此の雲の景気を見て候ふに、よも風雲にては候はじ

と、この雲は実は平家の怨霊であると見破り、弁慶は矢を構えて、

『天津児屋根の御苗裔、熊野の別当弁せうが子、西塔の武蔵坊弁慶』と名告つて、矢継早に散々に射たりければ、冬の空の夕日明りの事なれば、潮も輝きて、中差何処に落ち著くとは見えねども、死霊なりければ、掻き消す様に失せにけり

と見事に退散させます。

しかし、また続いて

又黒雲の車輪の様なる

と新たな黒雲が出てきます。こちらは、先の平家の怨霊を退けた弁慶も

是こそ風雲よ

という本物の嵐。こちらには弁慶の法力も通じず、結局、住吉の浜に打ち上げられるんですね。

平家の怨霊と嵐を区別して見ているのが新鮮で、面白く感じました。

Pocket
LINEで送る

柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

オススメの記事