大阪能楽会館 能楽教室

 そろそろ6月も始まりましたが、先月の話(苦笑) 書く頻度は落ちてるのに、書きたいものは減ってないとこうなります。

 5月25日に大阪能楽会館で催された能楽教室に行ってきました。この催しは毎年行われていますが、楽器の体験、狂言の講座、能面や装束の解説があって、最後に能の実演までがあって一般:1,000円、学生:500円という驚異の値段の催しです。

 大学能楽部の現役生たちに案内しておいたら、今年は新入生を引き連れてやってきました。能楽部に入るまで生の能や狂言を見たことがないという新入生たち(私もそうでしたが)。初めての能楽鑑賞だったはずですが、結構楽しんでくれたようで安心しました。

 内容はこんな感じ。

◆5月25日(木)18時半~ 於・大阪能楽会館(大阪市北区)
★囃子・狂言の講座(囃子に関しては先着各30名)
 其の壱・お囃子の部屋1
  講師 笛:野口亮 大鼓:石井保彦・辻雅之
 其の弐 お囃子の部屋2
  講師 小鼓:大倉源次郎・上田敦史 太鼓:上田慎也
 其の参 狂言の部屋
  お話「小道具について」牟田素之
  大蔵流狂言『瓜盗人』(部分)
  シテ:善竹忠重 アド:善竹忠亮 笛:野口亮
★『融』解説、および装束付
 大西礼久・吉井基晴・上田貴弘・笠田昭雄
★宝生流独吟『融』石黒美都
★観世流舞囃子『融-舞返』(装束付)
 シテ:大西礼久 地頭:上田貴弘
 笛:野口亮 小鼓:大倉源次郎 大鼓:石井保彦 太鼓:上田慎也

 最初に見慣れぬ紋付袴姿の方が登場。開演前にも大倉源次郎師と話されているのを見ましたが、大阪の能楽師ならほとんど顔を存じているのだけど…と思っていたら「こんにちは、桂吉坊と申します!」…落語家さんでした(笑)

 落語家って「笑点」のイメージかもしれませんが、カラフルな着物のイメージが強いので…しかし能楽堂で黒紋付に袴は反則ですよ(笑) 能楽師かと思いました。よく見たら、桂米朝さんで見覚えのある紋だったんですけれどね。吉坊さんは故・桂吉朝さんの弟子。米朝さんからは孫弟子にあたります。

 吉坊さん、落語家らしい明るい喋り口で進行役ということだったのですが、すぐ大倉源次郎師と交代。ちょっと残念でした。いや、源次郎師のお話も面白いんですけれど。

 その次は囃子と狂言に分かれての講座です。囃子習ってる身として、囃子の部屋に行くわけにはいかず(笑)、私は狂言の部屋へ。講師は狂言方大蔵流の牟田素之師。『瓜盗人』に使う小道具の話でした。

 能や狂言はあまり舞台装置は使わないのですが、いくつか使われる小道具があります。『瓜盗人』は小道具がたくさん使われる曲だと言えるでしょう。瓜畑に泥棒が入るので困った耕作人(善竹忠亮師)は、案山子を作ります。

 その時、案山子の材料に使われる小道具は特別なものではなく、いろいろなものを汲みあわせて作られます。胴は葛桶、その上に竹杖を横に置いて水衣をかけ、頭は羯鼓に”うそふき”の面をつけ、烏帽子をかぶせたものでした。出来はどうかと牟田師に聞かれた忠亮師「見たままの人じゃ」と仰ってました(笑)

 葛桶は狂言の中では最も活躍する小道具で、案山子の胴としての使い方のほかに、良く使われるのは床机(イス)。ほかに『舟渡聟』『千鳥』では酒樽、『柿山伏』では高い木、『附子』では黒砂糖の入った樽。フタだけを取って大盃に使うこともありますね。

 しかし、盗人は案山子に気付き、腹を立て畑を荒らして帰ります。耕作人も頭にきて、今度は自分が案山子に扮して盗人を待つことにします。ここからは実際の狂言の形式にて演じられました。

 盗人(善竹忠重師)が登場した最初の言葉が傑作ですね。「かりそめなことは致さぬものでござる」 盗人は元々の悪人ではないのです。たまたま瓜畑の近くを通りかかったところ、あまりに出来が良さそうなので、2つ3つ取って、さる方に進上したところ、「風味の良い瓜だが、お前が作ったのか」と聞かれ、つい自分が作ったと答えてしまったのでした。そのため、今度はお前のところに行って、瓜を食べたいと言われたので、仕方なくまた盗みにきたのでした。良い格好をしたいがために、つい口にした何気ない言葉が自分を苦しめることってよくあるので、盗人に少し同情です(笑)

 のんきな盗人で、案山子を相手に祭礼の余興の練習を始めます。鬼に扮して、罪人を地獄に追い落とす真似の箇所では、笛方森田流の野口亮師の演奏が入って良かったですが、そうして一人楽しんでいるところを正体を現した耕作人に追われて逃げかえるのでした。のどかな田園風景ただよう狂言でした。

 続いて、大西礼久師による面と装束の解説と着付け。今日の『融』に使う面に関して、「中将」と「今若」の二つの面を取り出して客席の意見でどちらにするか決める、なんてサービス溢れる企画があったのですが、ほぼ同数で困ってらっしゃっいました(笑)

装束着付中

 装束付は『融』ですので、狩衣に挿貫(貴族の袴)。この時は写真を撮っていいとのことでしたので携帯電話で撮ってみました…。あんまり良くないですが、ひとつ載せておきますね。普通の『融』では、浅黄の狩衣に紫の挿貫のことが多いそうですが、今回は「舞返」の小書(特殊演出)付なので、白の狩衣に赤の挿貫だそうです。

 着付の終了後、宝生流の石黒美都師による関西宝生流の案内と独吟、続いて大倉源次郎師による『融』の謡の解説がありましたが…『融』と月の関わりはよく言われますが、本当に細かく謡われているんですね。いちいち挙げると、しつこいでから書きませんけれど、今まで何気なく謡ったり聞いたりしていましたが、もっと謡について考えると奥が深いな、と思いました。

 最後は完全に装束を着付け終わった大西礼久師による舞囃子『融-舞返』。…といっても後見もいますし、大鼓・小鼓は床机に座ってますし、ほぼ半能。舞返は常の分の舞が終わった後に非常に早い調子の舞が加わる演出ですが、融の大臣のかつての栄華を再現するかのような、同時に栄華は一時の夢で、現在は廃墟となって跡形もないことを表すかのようで、好きです。

 「…この光陰に誘はれて。月の都に入りたまふよそほひ。あら名残惜しの面影や。あら名残惜しの面影」 謡が終わる前に幕に入ってしまう融大臣。すーっと月に消えていったかのようで素敵な演出でした。

 終了語は毎回恒例のロビーでの懇親会? ビール(ウーロン茶も可)片手に、能楽師の先生方ともお話できますよ(^^)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. ami より:

    囃子を習っている者は
    「囃子の部屋」は遠慮すべきだったのでしょうね
    私は小鼓を習っているので一度大鼓を打ちたくて
    お囃子の部屋に参加したいなあなんて思っていたのですよ
    30分前に行ったのですが
    すでに定員を過ぎてダメだったんですけれど・・・
    ゆげひさんは大鼓を習っておいでですね
    大鼓思いっきりひっぱたいて?みたいです

  2. amiさん、こんにちは。
    >>囃子を習っている者は
    >>「囃子の部屋」は遠慮すべきだったのでしょうね
    いや、そんなことはないと思いますよ~(^^;)
    私が個人的にその時はそう思ったというだけで…
    私も逆に大鼓習っているがために、
    小鼓の体験に行ったことがあります。
    まず持ち方が分からず、さらに大鼓が掛け声かける箇所で声をかけたり、
    打つ箇所で打ってしまったり失敗ばかりでしたけど(笑)

  3. のん。 より:

    はじめましてm(__)m
    私もこの体験行きました。偶然、此処を見付けて同じ空間に居た方がいるんだぁ。と感動?してコメントさせていただいてます。
    私は小鼓、太鼓を体験させていただきました。
    終わってから先生方とお話があったようですがどんな様子だったんでしょうか?用事ですぐに帰ったものでわかずじまいなんです(/_;)

  4. ★のん。さん
    初めまして。書き込みありがとうございます~。
    お返事が遅くなりまして申し訳ありません。
    ネットを見ていて、偶然でも同じ場所にいた方など発見すると
    なぜか嬉しくなってしまいますよね(^^)
    終わってからの懇親会はホント、ビールもしくはウーロン茶を
    片手に、出演された能楽師の方々と気楽に喋ることのできる
    空間です。これが楽しみの半分ぐらいだったりして。
    大倉源次郎師はさすがに人気で、
    ずっと誰かが囲んでいらっしゃる感じでした。

  5. のん。 より:

    私の方こそ、遅くなりましてすみませんm(__)m
    そうだったんですか?いいですね~☆
    私だったら、なんて話し掛けて良いのか困りますね(>_<)
    どんなお話されるのでしょうか?
    それにしても本当に偶然です*^_^*同じ場所にいた方がいたなんて(;^_^A
    私は正面の前から2番目の端に座ってました。
    割りと近くにいたんじゃないですか?

  6. 私もなんて話し掛けて良いのか、少し困りましたが、
    とりあえず思い切って話しかけなきゃ始まらないと思って…。
    私は正面席ではなくて、少し右側の、地謡座前の席の
    かなり後ろの方にいました。あまり近いともいえないような(笑)