2005年6月7日(火)18時半開演 於:京都観世会館
★大蔵流小舞『福の神』茂山あきら
★大蔵流狂言『舟ふな』
シテ(太郎冠者)=茂山千作
アド(主人)=茂山千三郎
★大蔵流狂言『鈍太郎』
シテ(鈍太郎)=茂山千之丞
アド(下京の女)=茂山宗彦
アド(上京の女)=茂山茂
市主催による狂言会があるのは、さすがに京都市。ほかに市民寄席などもあるみたいです。私は京都市民ではないんですけど、いただきもののチケットを持って行ってきました。
本当は最初に茂山千之丞師による「狂言こぼれ話」と、狂言『八幡の前』(シテ:茂山忠三郎師)があったのですが、先に用事があったため遅刻して見れませんでした。『鈍太郎』しか見れないかな、と思っていたのが小舞から見れただけでもラッキーなんですが。
マラソン狂言会の時も感じましたが、客が変によく笑いますね。千五郎家の客層って、頭っから「狂言って笑うもの」と思い込んでいて、無理に笑う部分があるのではないでしょうか。狂言にはシリアスな曲もありますし、「喜劇」はあくまで一面に過ぎないと私は思うんですけど…。マジメな演技な部分でも笑っている人がいて、私はどうも違和感を感じてしまいました。
でも会自体は面白かったですよ。特に初めて見た『鈍太郎』は楽しめました。
★大蔵流小舞『福の神』
狂言『福の神』の最後の部分を小舞として独立させたもの。私は『福の神』の狂言を見たことがなく、小舞も初めてでした。さすが狂言の神さま。神さまの割には俗っぽい処世訓を述べます(笑) そして最後は、自分のような神には酒を「イヤというほど盛るならば~」×3回と、たっぷりと神酒を捧げるように謡って、帰って行きました。
★大蔵流狂言『舟ふな』
太郎冠者を連れて、西宮参詣に行く主人。神崎の渡しで、太郎冠者が舟を呼ぼうと「フナやーい」と呼ぶのを主人が聞きつけ、「フネならばフネと呼べ」と言葉争いになります。初めは古歌で争う主人ですが、分が悪いと見えて謡に切り替え、能『三井寺』の一節を謡います。気持ち良く「山田矢橋の渡しフネの…」と謡ったのは良かったのですが、最後「フネもこがれて出づらん…」と謡ったところで口を噤んでしまいます。太郎冠者が得意げに「フナ人もこがれ出づらん」と続けるのでした。
西宮参詣を言い出すのも太郎冠者で、「西宮はすーっと景の良いところか」と主人に聞かれ、自身満々に「景の良いところでございます」と答えるところなど、太郎冠者は実際に世を広く知ってる感じです。「フネならばフネと呼べ」を主人に注意された時も「ここは私に任せて下されい」と気にせず、「フナやーい」と呼び続けるなど、太郎冠者の自負が窺えました。
茂山千作師演じる太郎冠者は、主人より何倍も上手で、先代から仕えているような老獪な使用人って感じの好演でした。茂山千三郎師は、一度、「フネ」というべきところを、「フナ」って言ってたような…(^^;) でも、その後の千作師によるフォローがあまりにも自然で、よく分かりません。
★大蔵流狂言『鈍太郎』
3年ぶりに九州での訴訟が片付いて都に戻った鈍太郎。彼はなんと2人の妻を持っています。まず下京の正妻、次に上京の女のところへ良くのですが、あまりに無沙汰のため、2人とも本当の鈍太郎とは思わず、挙句の果てには武芸者を新しく夫に迎えたと言って、鈍太郎を追い払います。悲観した鈍太郎は、元結を切り、出家して廻国行脚に出掛けようとします。ところが実は2人とも新しい夫などは持たずに、鈍太郎の帰りを待っていたので、2人で鈍太郎を引きとめます。なかなか承知しない鈍太郎でしたが、結局月を上15日、下15日に分けて、上京・下京双方を通い分けることに決め、2人の女の手車に乗って、得意満面に帰っていくのでした。
髻を切り落とすシーンなどは、いささか勝手ではある男ながら、2人の女性に続けて捨てられた寂しさをうまく描いているシリアスなシーンで、印象に残っています。茂山千之丞師の演技の妙が良く出る部分だと思いました。
後半、2人に出家を止められる場面では、最初はマジメに断っていたのが、やっぱり女性との生活に惹かれ始めたころから、出家をたてに我侭を言い出すあたりは笑いを誘います。特に下京の幼馴染の正妻より、新しく迎えた愛人格の上京の女をひいきするあたりは、やっぱ人間ってこうだよな~と(笑)
上京は高級住宅地、下京は商工業の中心地だったそうです。狂言には時々、上京と下京の対比がありますよね。下京の女が幼馴染で正妻ってことは、鈍太郎も下京出身の、身分はそんなに高くないけれど、実業家的な存在だったのではないかな、と思います。ほかに『月見座頭』でも座頭は下京で、男は上京の者だったり、と対比がなされていて、意識すると面白いかも。
ちょっと男の都合の良い話ではありますが、「女性にやりこめられる男性」が多い狂言。たまには「男に都合の良い話」があっても良いかも?
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