冠者殿社

冠者殿社(1)

住所:京都市下京区四条通寺町東入ル

 京都一の繁華街・四条河原町にも近い四条新京極の雑踏の中に八坂神社の御旅所があります。祇園祭の間、神輿が留まる場所なのですが、その脇に冠者殿社という小さな社があります。

 ここは「誓文払い」の神様です。誓文払いとは10月20日に、商人や遊女などが、平素商売の駆け引き上、客にうそをついた罪を払い神罰を免れるため、この冠者殿社に参拝し、そしてその前後数日間、罪滅ぼしと称して京阪の商店では特売などが行われることです。いわゆるバーゲンセールの走りですね。一切無言で参詣しなければ願いは破れるそうで、「無言詣」という呼び方もあります。


冠者殿社(2)

 祭神はアマテラスとスサノヲ。『古事記』や『日本書紀』に記されたニ神の誓約(うけひ)に関連付けられているのですが、俗説に平家が滅びた後、源義経を暗殺するために源頼朝によって遣わされた討手・土佐坊昌俊を祭っているともいいます。

 土佐坊昌俊は、能では『正尊』のシテ・土佐坊正尊。彼は表向きは熊野詣のために上京したことになっており、義経と弁慶に迫られて「全く正尊討手に罷り上る事なし。この事偽りこれあらば。この誓言の。御罰と当たり。来世は阿鼻に。堕罪せられんものなり」と誓文を書いて神に捧げます。能『正尊』の前半の見どころになっている「起請文」です。

 しかし、誓文をしたためながら土佐坊は夜陰に紛れて義経の堀川邸を取り囲み、攻めます。これが世にいう「堀川夜討ち」です。能『正尊』では、よく言われる「幽玄」とは正反対の、丁々発止のチャンバラが繰り広げられるシーンですが、結局義経一行の奮戦のため土佐坊は捕らえられ、斬首されました。

 死にあたって土佐坊は「この後、忠義立てのために偽りの誓いをする者の罪を救わん」と願をかけたと言います。そういうわけで商売の駆け引き上、客にうそをつく人々の守護神とされたのですね。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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