今日も京都へ。京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科の能楽演習授業発表公演、三島由紀夫『近代能楽集』より「綾の鼓」を見て来ました。演出は同大学教授の観世榮夫師。出演とスタッフは京都造形芸術大学の学生さんたちでした。さすがに芸大の映像・舞台芸術学科、お上手だなぁと思いながら拝見してました。
『近代能楽集』は三島由紀夫が能を翻案した現代劇で、「綾の鼓」のほか「邯鄲」「卒都婆小町」「葵上」「班女」「道成寺」「熊野」「弱法師」があります。戯曲としては、前に読んだことがあるのですが、観るのは初めてです。
能『綾鼓』のあらすじは次のようなもの。女御に恋した庭掃きの老人が、鼓を打ってその音が御殿に聞こえたら会ってやろうと言われ、懸命に鼓を打ちますが音は鳴りません。鼓は皮の代わりに綾が張ってあり、元から鳴らない鼓なのでした。絶望した老人は池に身を投げて死に、怨霊となって女御を責め苛むのでした。
『近代能楽集』の「綾の鼓」は庭掃きの老人が法律事務所の小間使い、女御が貴婦人に変わっていますが、舞台展開は大まかには同じです。幕が開くと舞台は二つに分かれていて、左側が小間使いが働く殺風景な法律事務所、右側が貴婦人たちのいる洋裁店。それぞれの行き来は、小間使いの老人の書いた恋文を若い事務員が届ける時ほかは、全くありません。地の分にある「善意の部屋」と「悪意の部屋」がそれぞれ対立して混ざり合わない効果があるんだなぁと思いました。
そして効果的だったのが、老人に恋心を寄せられる貴婦人が、老人が死ぬまでは一言もセリフを発しないこと。悪意の部屋の中でも、貴婦人だけが少し違う存在であるかのように感じられました。そして、怨霊として再び現れた老人に対して、「あの鍵はマダムのポケットから盗んだのよ。あたくしの指先はとても器用なの。すりの手並が今でも衰えていないことが、ためしてみてわかってうれしかったわ」という言葉を浴びせます。
最終的に老人は綾の鼓を99回まで鳴らしても、貴婦人に届かないことに絶望し、消えて行きます。貴婦人の「あたくしにもきこえたのに、あの一つ打ちさえすれば」という絶望の言葉でこの劇は終わります。うまく理解はできなかったのですが、いろいろ感じて面白かった舞台でした。
私はあまり三島由紀夫に親しみがなく、読んだことがあるのはこの『近代能楽集』と映画化された『春の雪』ぐらいです。でも印象として、とても複雑で、でも綺麗で詩的な日本語を書く人だなと思います。『近代能楽集』のセリフなんて、多分普通には出てこない言葉ばかりでしょう。しかし、だからといって不自然には感じられず、逆に思わず引き込まれてしまう、そんな言葉です。
また見てみたいですね、『近代能楽集』。特に「卒都婆小町」なんて面白そうです。
えーっ!観たいですねえ。
あっ,柏木さん,こんばんは。
15年前に読んだ三島由紀夫著「近代能楽集」。
あのストーリーの余韻がまだ染み付いております。
「能楽の淵」のチェックが甘かったですね(笑)。
NAKAさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
>>「能楽の淵」のチェックが甘かったですね(笑)。
いえいえ、私もあまり目立つように紹介はしなかったですし…。
『近代能楽集』面白かったです。
やっぱり戯曲は見なければ分かりませんね。
初めまして。能・狂言が好きで今までもちょくちょく覗かせて戴いていました。
近代能楽集なのですが、私も好きです。
心に残る美しい言葉。三島由紀夫の作品は、文章(台詞)が美しいと思います。
実は昨年、蜷川幸雄演出の「近代能楽集」の再演を観に行きました。卒塔婆小町と弱法師の2作なのですが、無茶苦茶良かったです!
卒塔婆小町に感嘆してきました。
老婆が美しく見えてくるのが不思議。舞台装置がとても綺麗でした。
日向さん、初めまして。
コメントありがとうございます(^^)
『近代能楽集』、面白そうだなぁと思ってみて見たら
実際面白かったです。美しいですよねぇ。
唯一読んだことのある小説『春の雪』も、
聡子の描写が美しくて…上手く表せませんが、
思わずふわーとした気持ちになってしまいました。
蜷川幸雄さん演出の作品は見たことがないのですが、
いろいろな評判を聞いていると良さそうですよね。
「卒塔婆小町」「弱法師」ですか。私も見てみたいです。
9/27Eテレにて能放映
9/27(日)21:00より、NHK Eテレにて、金剛流の能が放映されます。