能楽師になった外交官

4121014898 能楽師になった外交官
著:パトリック・ノートン 訳:大内侯子・栩木泰
中央公論新社 1999-08
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 著者のパトリック・ノートンさんは、ベルギーの外交官。1968年に大阪総領事として日本に赴任した際、ふとしたきっかけで神戸の上田照也師(シテ方観世流)に謡を師事して以来、その魅力に憑かれてしまったのでした。

 1972年に日本を離れますが、再び日本へ赴任することを努力し、1988~97年には駐日大使として再び日本へ。その間に師匠の照也師は亡くなってしまいますが、代わって観世清和師、次いで照也師の三男・上田公威師に謡を習うようになりました。ノートンさんの謡稽古の体験記がこの本です。

 タイトルには「能楽師」とありますが、文中に「アマチュア能楽師」という言葉も出てくるように素人愛好家のことで、一般的なプロの能楽師という意味ではありません。ただ、ノートンさん自身が一般的に「能楽師」と呼ばれていたようで、訳者あとがきに「あえてつかわせていただいたことを付記しておく」とわざわざ書かれています。

 ただ外国の外交官という立場からの能の世界。面白かったです。ベルギー外務省の決まりで、外交官としての業務内容のことは書けなかったそうですが、そのせいか、読んでいると能三昧で大使の業務をしてらっしゃったんじゃないかと錯覚してしまうぐらい(そんなことはあり得ないでしょうけれど)、濃い能楽体験記でした。日本への愛を感じてしまいますね。

 上田家は神戸の能楽の家なので、関西在住の私にはちょっと親しみ(笑) 長田神社の薪能の話などもありましたし。後半は、本田技研の創業者・本田宗一郎さんに関する文章で能には関係なかったのが残念です(笑)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. amizあみ より:

    この方の解説がはいってたのではないかと 思い出したのですが  随分以前のこと「大般若」の能 清経の舞囃子などをテレビで流したのです。雨上がりの芝生の薪能でした。録画して何度もみてますが なぜだかとても気に入っています。 おかげで画面は白黒になってしまいました^_^; 

  2. この本を読んでいると、ベルギー大使館の庭で催された薪能にて
    梅若六郎師が直接芝の上で復曲能『大般若』を演じられたことが
    あったようです。
    もしかしたら、その時の映像なのかもしれませんね。

  3. BACKYARD より:

    はじめまして BACKYARDです。のぅラインでコメントいただいて、ありがとうございます。 いつもホームページ拝見していますが、なんか 大御所のブログにコメントするのは 初心者なのでおそれおおいです。
     パトリック・ノートンさんのことは私の中の伝説の能楽師 上田 照也先生の 伝説のなかでちょっと触れさせていただいたことがあります。
    本かって読まんとねぇ
    梅若家の虫干しでお会いしているのですねぇ 失礼いたしました。なんせ去年は皆勤?だったかも
    たしか3回はお伺いしました。
    今年は皆勤するぞ~と 猶眞さんに宣言したら バカといわれました。
    なんせ 「傍ら生活」してても 心置きなく 能面 見せていただける機会は あまり ありませんから・・・
    能楽堂でお会いしたら お声かけてください。
    あ~  でも 緊張するなぁ 
    ゆげひさんですよ ゆげひさん・・・

  4. BACKYARDさん、初めまして。
    コメント&いつも拙サイトをご覧下さってありがとうございます(^^)
    大御所なんかではありませんよ~。
    観能歴はやっと6年目ぐらいですし、若僧ですし。
    上田照也師、"伝説の能楽師"ですか。
    今年、1月に催された上田照也追善能の時に、
    いろいろ書かれてましたね。
    そういえば、ベルギー大使とあったような。
    この本を読むまで、忘れてました。
    皆勤は凄いですね~。
    去年はなんとか1日行けたな、って感じでしたから。
    今年はますます行き難いんだろうなぁ、と(笑)
    >>ゆげひさんですよ ゆげひさん・・・
    いえ、怖くないですって(笑)

  5. BACKYARD より:

    お返事ありがとうございます。なんか 緊張するわぁ。
    「観能歴はやっと6年目」うそでしょ すごいなぁ すごいなぁ。
    「のぅライン」さんも1年ぐらいといわれてましたし、うそでしょ すごいなぁ すごいなぁです。
    私なんて いまだに チンプン カンプンです。能面は傍らの小僧で少しは 見れるように なりましたけれど・・・
    私がお能を観るようになったのは、猶眞さんが「とがどうしたらいい面がつくれますか」と上田 拓司先生にお尋ねしたら 先生が、観正会のチケットを2枚くださいました。「お能を知らずにいい面はつれない」ということだと思い。遅まきながら二人で観能するようになりました。
    今では だんだん 深みにはまって 一人歩き・・・
    能楽の淵のホームページやブログは「バイブル」で~す。
    おそれ多いですが・・・ブログ入っていきやすいように 私の「お知り会いの輪」にリンクしてもいいですか?

  6. 柏木ゆげひ より:

    私はすごくなんかないです。ただ好きなだけで。
    でも、小理屈まわしているだけで、
    本当は何も分かってないのではないかと思うこともあります。
    面のこととかは、全然分かりませんし。
    (やっと大雑把な種類だけはわかって来たかと…)
    能に興味を持って、その小道具(といっていいのか?不安ですが)として
    能面に興味をもつようになった人間には分からないのですが、
    能面は、能から独立しても十分に魅力があるものだそうですね。
    ここが「バイブル」だなんて、本家の聖書が気を悪くしますね(^^;)
    リンクはご自由にどうぞ(^^)