昨日行ってきた、片山清司師が数年前から製作されている能の絵本の会です。招待券を2枚いただいたので、中学校以来の友人(現在、京都在住)を誘いました。彼は能はほとんど見たことがないですが、妖怪などが大好きな男ですから、『大会』について「天狗の話やで~」とエサにして(笑)
映像と囃子と絵本語りでつづる能の世界
◆11月9日(水)19時~ 於・京都観世会館
★絵本語り『大会』
語り=片山清司・野村万蔵
笛=藤田六郎兵衛 小鼓=吉阪一郎 大鼓=河村大 太鼓=前川光範
★観世流仕舞『海士』片山清司
★観世流仕舞『天鼓』片山清司
★絵本語り『項羽』
語り=片山清司・野村万蔵
笛=藤田六郎兵衛 小鼓=吉阪一郎 大鼓=山本哲也 太鼓=前川光範
舞台の笛柱の前にスクリーン、ここに絵本の絵が投影されます。この絵がまたステキなんです。ワキ座に語りのお二人の席。橋掛りの一の松周辺に見台が置かれていて、そこが囃子方の座でした。能舞台に元々付いているライトのほかにいくつか照明が付け加えてあるようで、照明効果もふんだんに使われていました。
能が始まる前のようにお調べがあって、半幕で囃子方登場。橋掛りに座って名乗リ笛が鳴ると、切戸から作務衣?姿の片山清司師が登場して、ワキ正面辺りでお経を唱える。どうやらワキのお坊さんの役のようです。その間に闇の中を静かに野村万蔵師がすっと座に着かれて始まり。
囃子を効果音楽として、上手く利用なさっていました。能の囃子がそのまま使われているところもありましたし、武道の達人が気合を入れる様を大鼓の「エイ、ヤーッ」で表すような、今回工夫したらしいものもありました。
『大会』は、ある天狗が命の恩人である老僧に恩返しをしようと、僧が願う霊鷲山での釈迦の説法(大会)の様子を見せるものの、僧が思わずそれを拝んでしまったがために、僧を誑かしたとして天から下った帝釈天に散々に懲らしめられてしまうという能。愛すべき存在としての天狗。確かに絵本向きなストーリーですね。
前半はほとんど語りだけで展開しましたが、天狗が仲間を読んで仏に化けるところや、釈迦の説法の妙なる音楽が聞こえるところは謡が謡われ、また帝釈天が現れて天狗が懲らしめられるところは野村万蔵師が舞の演技で表現。
いやー野村万蔵師は初めて拝見するのですが、激しい動きの中にも、しっかり腰が安定していて、基本が確かに備わっている感じが実に私好みでした。これは誘った友人も感じたらしく、終わった後も「万蔵さんが良かった」としきりに繰り返してました。
途中に仕舞と休憩を挟んで、後半は『項羽』。パンフレットに「上演頻度も低く人気が高いとはいえない」とあるように、私は能として見たことありません。中国の秦から漢に移る狭間の時代の英雄・項羽の、妻・虞美人との情愛、そして滅びていく様を描いた能ですが…行動が男前過ぎ。カッコ良いぞ、項羽! なぜこの曲があまり演じられないのでしょうか。話は良くても能としての出来が悪いのかな、などと想像はできますが…これは実際に能『項羽』を見てみないことには何とも言えませんね。
あと『大会』はポイントのみ謡や舞が使われていたのに対して、『項羽』は最初、音取置鼓の囃子で幕から登場、片山清司師と野村万蔵師が向かい合ってサシ込ミ開キしてから次第を謡うとか、項羽と虞美人と別れのシーンを舞で描いたりと、全体的に能様式の表現がより濃かったです。
とにかくよく出来た催しで、私はまんまと『大会』と『項羽』の能が見たくなってしまいました(笑) 連れて行った友人も満足したようで、良かったです。
演劇や映画を見るときに、見たいと思うきっかけのひとつとして、原作を知っていて好きだから、というのがありますよね。
能だって演劇ですから、以前の日本人なら多くの人が知っていた、例えば『源氏物語』や『平家物語』といった話を元に作られているわけです。『項羽』に関しても、能としてはマイナーかもしれませんが、よく高校の漢文の授業で読まされる『史記』の「虞や虞や汝いかんせん」という有名な詩のエピソードを舞台化したものです。
しかし私も含めて、今の日本人にはこういった「昔話」もマイナーになりつつあるんですよね。それを「絵本」という形で、小さな子どもにも読み聞かせられるものとして再び作ろうとされている片山清司師の活動は、地味なようでいて、実は大切なことなのかもしれませんね。
もちろん、単に子ども向けであるだけではなくて、私も十分楽しませていただけましたし(これ大切だと思います)。また、機会があれば「絵本語り」の会を聞きに行きたいものです。
とりあえず、以下に片山清司師による「能の絵本」を並べておきます。
海女の珠とり―海士 片山清司 岡村桂三郎 by G-Tools |
天狗の恩がえし―大会 片山清司 小田切恵子 by G-Tools |
青葉の笛―敦盛 片山清司 大橋彰 by G-Tools |
天からふってきた鼓―天鼓 片山清司 小田切恵子 by G-Tools |
大王の赤い花―項羽 片山清司 白石皓大 by G-Tools |
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→蝉丸日記:師匠稽古+絵本語りでつづる能の世界
「映像と囃子と絵本語りでつづる能の世界」@観世会館(11/9)
「映像と囃子と絵本語りでつづる能の世界」@観世会館(11/9)
今回の能はオーソドックスなものとは一風変わったものでした。
タイトルのまんまなのですが、
能を映像と囃子(語り)を使って
より身近なものに感じてもらおうという趣旨のものなのです。
この
かなり充実の内容。
能は最近知り合いからのお誘いで、行くようになりました。
これからいろいろ活用させていただきます。
ちぇぶっこさん、コメントありがとうございます。
能は、ちょっとツボを掴むと楽しいですよね。
そのツボを掴むのが少し難しくて、敷居が高く見られがちですが
…そういう意味でもこういう試みはもっとやって欲しいですね。
「大会」は学生時代、2~3度みたことがあります。
面の上にさらにもう1つ面をかける、と聞いて「すごいなぁ~(@_@)」と思った記憶があります。
「項羽」も2回見てますわ。
1回は大西定期能で、ツレを菊本澄代師or菊本美貴師だったような気が…。
あと1回は言わずとしれた杉浦定期で、杉浦元三郎師のシテでした。
が、「項羽」についてはあまり印象が残ってません。
ツレ(虞美人)が飛び込む部分が一畳台から前へ飛び降りたことぐらいでしょうか。
なんだかんだ言って稀曲も結構見てるんだなぁ、と改めて思いました。
とりあさん、お久しぶりです。
『大会』はそうそう出る曲でもないですが、
特に稀曲というわけでもないですよね~。
私も2度見たことがあります。
最初に見たのは釈迦の面を使わないもので、
後で、それが観世流本来の形なんだと聞きました。
2度目に見た時には面を二重にかけてましたが、
上の釈迦の面が、安っぽい感じで違和感を覚えたことが
印象に残ってます。上にかける釈迦の面にはあまり
良いものがないとは聞いていますが…
天狗が見せたニセの釈迦とはいえ、
お坊さんが思わず拝んでしまうワケですから、
もっとマシな面はなかったのか、と思いました。
『項羽』は見たことがないのですが、虞美人が飛び込むんですか!?
そういや、虞美人の役らしい片山清司師が、項羽役の野村万蔵師から
剣を受け取り少し舞うや、角柱の近くでトンボ切ってましたっけ。
今回、新しく『項羽』の絵本を作り、絵本語りされたのですが、
その理由はパンフレットによると
「能の家に生まれた幼い頃の片山清司の心に深く残った物語だった」
からだそうです。
「項羽」の後場で、項羽の戦での様子や虞美人の入水の場面があったように思うのですが…。
一畳台から前へ飛び降りることで入水を表しているそうです。
なるほど。『能・狂言事典』の「項羽」の項に
「草刈りのその夜の夢に、矛を持った項羽と愛妃虞美人の霊がありし
日の姿を見せ、四面楚歌の中、虞氏哀切の最後(〈舞働〉)と
項羽焦燥の苦戦・悲憤の自刃を再現して見せるのだった。
…後場に一畳台、これは亥下の城壁の様式的表現である。
…〈舞働〉は堀に投身した虞氏の身を項羽が矛の柄で探すものだが…」
とあるのが、実際にどのようなものなのか、少し想像できる気がします。
お能の絵本があるんですね~驚いたと同時に、紹介してくださって有難うございます。どれも、まだ読んだ事がないので,図書館に行って,借りてみたいと思います。読み聞かせをしている友人にも、勧めてみたい本があったので、声賭けをしようと思います。お能は、まだまだ、よくわかりませんが、5年の息子が『屋島』の事をよく知っていて、これは私も勉強しないと同じ話が出来ないわ~と思ってます。23日に、大阪能楽会館で梅基会大会があるので、子供と一緒に観に行く予定です。入場無料なのと梅若先生のお社中の方やお子さん方が出られるので、気軽に観れるのではと楽しみにしています。
絵本もステキですが、作者である片山清司師の
「絵本語り」もステキですよ。
また催されることもあるかと思いますので、是非。
しかし、5年の息子さんって、小学5年生ですよね?
それで『屋島』のことをよく知っているなんて…凄いです!
片山清司師の『絵本語り』をぜひ一度は行ってみたいですね~子供がワークのお教室で、小鼓を体験したので、「天からふってきた鼓」は、親子で読みたい絵本ですね。 それにしても、祖母が四世で、お姉さまが五世の井上八千代さんなんて、なんと恵まれた環境に生まれ育ったのでしょう!なんだか、段々、片山師の舞台を観てみたくなりました。小学5年の息子が夢中になっている『屋島』を、舞台で観るのが親子のささやかな願いですが、歴史の話など、今までしたことが無いのに、急に、義経が好きだのとか言って、お習字でも「義経」と書いて持って帰ってきた程なのですよ。能楽から入ると、歴史も結構楽しいですね。能楽は色々な事がつながっていて、とても奥が深いのですね。難しいから、お能は興味が無いわ~と言ってた自分は何処に行ったのでしょうね。(笑)能楽が大~好きなおばは、お能について話し合える人が出来、病気も治ったくらいです。ゆげひさんのホームページに出会えて、感謝です(^_^)
息子さんが義経がお好きというのは、大河ドラマの関係でしょうか。
確かに『屋島(八島)』は源義経を主人公とする能ですが、
なかなか重厚な曲ですから、義経関係の能としては
派手な『安宅』や『船弁慶』『橋弁慶』などが
最初に見る曲としては割とオススメですよ。
27日に大阪能楽会館にて「義経と周囲の人々」という副題で、
「梅若猶義能の会」が催されますが、これなんか義経関連の曲ばかりで
構成されてますし、当日12時から主催の梅若猶義師による
解説などワークショップも催されるそうです。
大河ドラマは知りませんでした‥何でも、歴史の事を調べている時に、ワークのお教室で、梅若基徳師と出会い、その時に屋島の話が出たと言ってました。27日は悲しい事に、ボーイスカウトの活動と重なっているようです‥。9月に、「一角仙人」「土蜘蛛」を観ており、特に「土蜘蛛」はまた観てみたい演目だと言っておりました~「安宅」「船弁慶」「橋弁慶」などの観れる日も一度探してみます。「葛城」は、私が観たいと思っている演目ですが、子供には難しいのでしょうか?」子供が見ても、楽しめる演目があれば、又教えてください。宜しくお願いします。
歴史のことを調べている内に梅若基徳師と出会い、
そして『屋島』の話ですか。それはステキですね(^^)
関西での能や狂言の公演情報は
http://funabenkei.daa.jp/koen.html
として作成しておりますので、良ければお使いください。
検索もできます。
『葛城』が子どもに難しいか、というと…
そんなことはないと思いますよ。
むしろ大人だから能が難しくないというものでもないですし(苦笑)
要は、素直に「感じる」ことだと思いますから。
白石先生の絵は、本当に素敵です。
人間性も私はすきでした。
感謝してます