さて、せっかく大阪市内に住むようになったのだからと、大阪市周辺の能や狂言ゆかりの地巡りをしようかと思いました。思ったら即行動。大好きな『船弁慶』にも「今日思ひ立つ旅衣」とありますし。
というわけで、最初に行ってみたのが松虫塚。男同士の愛にも近い友情を描いた能『松虫』の舞台となった場所です。「友」という言葉の繰り返しが20回以上というのは尋常ではありませんが、まあ、この曲に関しては大鼓の稽古を受けた時に書きましたので、重ねては書きません(笑)
最寄の交通機関は、大阪の路面電車である阪堺電鉄「松虫」駅ですが、大阪の南のターミナルである天王寺からでも十分歩ける距離です。そういうわけで現在はほぼ町中ですが、阿倍野という地名から分かるように、昔はこの周辺は広い野原だったそうです。松虫(鈴虫)の名所だったというのも納得ですね。狂言『月見座頭』は京都近くの野原が舞台ですが、思わずあの狂言で座頭が虫の音を楽しんでいる場面を想像しました。
能『松虫』の元ネタとなったのは『古今和歌集』にある和歌です。二人の男同士の親友が、月の夜に松虫の音を聞きながら歩くうち、うち一人は聞き惚れて草むらに分け入ったまま、草のしとねに伏して死んでしまいます。残った友が泣く泣く彼を埋葬した時に詠んだのが「秋の野に人まつ虫の声すなり。われかとゆきていざ弔はん」というものです。
しかし、松虫塚には他にも伝説を持ってます。その一つが後鳥羽上皇に使えていた松虫と鈴虫という官女の姉妹が浄土宗の開祖・法然に感銘を受けて出家し、法然が流罪となった後、松虫がこの地に草庵を結んで暮らしたという話。「経よみてその跡訪ふか松虫の塚のほとりにちりりんの声」という和歌が『芦分舟』という本に載っているそうです。もっとも調べてみると『芦分舟』は江戸時代の本だそうで、『古今和歌集』に比べるとかなり新しいですが。
他に、ある女性の琴の名手が、松虫の自然の音に及ばないことを嘆いて詠んだ漢詩なんてものもあるそうです。「虫声そくそく荒野に満つ。恋情を闇にかもして琴瑟を抛つ」
いろいろ伝説のある場所なんですね~。
>思ったら即行動
さすがゆげひさん、フットワーク軽いですね!
「月見座頭」で「昔津の国阿倍野とやらで、松虫の音にしのび入って空しうなられた人があると申す」っていうのは能の「松虫」から取っているのですか!知りませんでした。物知りだな~、ゆげひさんは。
peacemamさん、おはようございます。
>>さすがゆげひさん、フットワーク軽いですね!
というよりも、「いつか…」と思っていると忘れてしまうんで(笑)
狂言『月見座頭』で能『松虫』を踏まえた表現を感じたことはありましたけど、
「津の国阿部野」っていってました? そこまでは忘れてました(^^;)
酒宴の時に座頭が謡う
「ただ松虫の独り音に。友待ち詠をなして。舞ひ奏で遊ばん]
というのも『松虫』の一節ですよね。ついでに男が謡う
「真如の月の影を。眺め居りて明かさん」は『三井寺』です。
私も覚えていたのは「松虫の音に聞き入って死んでしまった」ということだけでしたので、古典文学大系で調べたのです。
やっぱりもっと謡本を読み込まないと狂言が何のどこをもじっているのかわからないですね。もう少し本腰を入れて狂言の真髄を探りたいんですけどねえ。。。
古典文学大系の狂言集も持ってらっしゃるんですねぇ~。
狂言台本はひとつも持ってないので、欲しいところです。
別に『通円』などでなくても、狂言で能のもじりをやってることって
多いですよね。次第のように、形式として同じってこともありますし。
新作ですが、『死神』を見ていると、病人を小袖で表したり、
医者が呼び出される時の謡など『葵上』を踏まえていることが分かるので
茂山家もかっちり演じてくれてもいいのになぁ、なんて思います。