詩文に優れる大津


 大津皇子は詩文に優れているといわれています。しかし、『万葉集』に和歌が4首、『懐風藻』に漢詩が4首残っているだけで、大津作として伝えられている詩歌の数は決して多くありません。

 というよりも、『日本書紀』を含めて、実際には大津のことを記す文献はあまり多くありません。私が少し調べただけでも、だいたいは全て揃ってしまった程度です。大津関連の史料は著しく限定されていると言っていいと思います。しかしながら、それらの限定された史料がかなり脈絡のはっきりしているがために、悲運の皇子としての印象が強烈で、大津が有名になっているのでしょうね。

 しかし、その少ない歌が秀作揃いであるために、例えば川崎庸之さんの「天武天皇の諸皇子・諸皇女」の中で「大津皇子といひ、大来皇女といひ、天武天皇の諸皇子の中で、眞に詩人の名に値するのは恐らくはこの二人ではなかつただろうか」と称えられる結果となったのです。ここでは、大津の漢詩や和歌のうち、ほかの場所で紹介できないものを紹介しておきます。

  五言。春苑言に宴す。一首。
 衿を開きて霊沼に臨み
 目を遊ばせて金苑を歩む
 澄C 苔水深く
 □瞹 霞峰遠し
 驚波 絃と共に響き
 哢鳥 風の與聞ゆ
 群公 倒に載せて歸る
 彭澤の宴誰か論らはむ

  五言。遊猟。一首。
 朝に擇ぶ三能の士
 暮に聞く萬騎の筵
 臠を喫みて倶に豁たり
 盞を傾けて共に陶然なり
 月弓 谷裏に輝き
 雲旌 嶺前に張る
 曦光 已に山に隠る
 壮士 且く留連れ

  七言。志を述ぶ。一首。
 天紙風筆 雲鶴を畫き
 山機霜杼 葉錦を織らむ
  後人の聯句。
 赤雀 書を含む時至らず
 潜龍 用ゐること勿く 未だ安寝せず

(『懐風藻』)

 大津皇子御歌一首。
経もなく緯も定めず少女らが織れる黄葉に霜な降りそね

(『万葉集』第8巻)

(written on 2001/12/22)


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「世の中に昔語りのなかりせば―」
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