女性天皇について


 2001年12月1日14時43分、雅子皇太子妃が宮内庁病院で、内親王を出産しました。皇太子夫妻にとっては最初の子どもですし、安産だったそうで、まずはめでたい。1週間後の「命名の儀」によって、敬宮愛子内親王と名付けられ、皇統譜(一般でいうところの戸籍)に記されたそうです。

 ところで、今のところ天皇家には35年間、男子の誕生がありません。その35年前の誕生した男子というのが、皇太子の弟である秋篠宮文仁親王のことです。秋篠宮には妃の紀子さんとの間に子どもが2人いますが何れも女子。そんなわけで、このままでは天皇家には将来あと継ぎがいなくなるのでは、と心配されています。

 今回誕生した内親王も含め、皇女には皇位継承権は現在の日本においては認められていません。それは皇室にかかわる様々なことを定めた「皇室典範」という法律にこう書かれているからです。

 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
(「皇室典範」第1条)

 しかし、現在伝えられている「皇統譜」には、歴代天皇として、推古・皇極・斉明・持統・元明・元正・孝謙・称徳・明正・後桜町の10代の女性天皇が記されています(もっとも皇極と斉明、孝謙と称徳は同一人物が重祚したものですから、実際は8人)。ほかにも古代には天皇かもしれない女性は何人かいます。

 まず『日本書紀』に他の天皇と同じように「紀」が建てられている神功皇后。『大鏡』など、その後の本を読んでいても、彼女が一代の天皇として数えられていることが分かります。しかし、後に明治時代になって、彼女は歴代天皇から外されました。

 顕宗・仁賢両天皇が互いに位を譲り合っている間、代わって政務を預かったという飯豊皇女。『扶桑略紀』という歴史書や『本朝皇胤紹運録』という天皇家系図は、彼女の即位を認め「飯豊天皇」と記しています。

 また『万葉集』に見える「中皇命(なかつすめらみこと)」は、孝徳天皇の皇后であった間人皇女のことだといわれています。斉明女帝が崩御してから、天智が即位せず皇太子として政務を執り続けた6年間の間に即位した天皇だとされているのです。

 このように、古代まで遡れば女性天皇の例は決して少なくありません。

 また男女雇用機会均等法が作られるなど、現在、男女は(実際はともかく)法令などでは特に差別が行われないようになってきています。そのため、この先、女性天皇が認められないということはないのかもしれません。

 ただし、「男女同権」論的な立場から女性天皇の可能性を主張するならば、考えなければならない問題があります。女性天皇の子どもの立場です。

 過去に即位した女性天皇たち(神功、飯豊、間人をとりあえず含めておく)の配偶者関係をみると

元皇后 神功、推古、皇極(斉明)、間人、持統
元皇太子妃 元明
未婚 飯豊、元正、孝謙(称徳)、明正、後桜町


 となります。もっとも飯豊は『日本書紀』に男と交わったことが明記されていますが

 飯豊皇女、角刺宮に於ひて夫と初交す。人に謂ひて曰く、「一女の道を知りぬ。又安くにぞ異なるべけむ。終に男に於ひて交わることを欲せず」と。
(『日本書紀』清寧紀、清寧2年7月条)

 「男と寝たけど、どうってこともない。だからもう寝たいとも思わない」と言い切り、それ以降は交渉も無かったようです。凄い人ですね(^^;) そんなわけで、飯豊には子どもはいないらしいです。

 神功の子の応神、皇極の子の間人・天智・天武、元明の子の文武・元正など、女性天皇の子で即位した天皇がいないことはないですが、神功・皇極・元明はいずれも元皇后(もしくは元皇太子妃)であり、その子どもたちは男系でも天皇(もしくは皇太子)の子でした。

 つまり、過去の女性天皇はみな「一代限り」の存在なのです。女性天皇が即位することはありましたが、あくまでも皇位は「男系」継承されたといえます。

 男女同権だけでなく、ほかにも皇族に対して自由を認めるかどうかも話題になりそうな気もします。例えば現在の天皇には、即位拒否や退位の自由はありません。上皇を認めるかどうか。認めるならばどのような待遇になるのか。ほかの皇族に関しても、自由に身分を捨てる自由はありません。そういったことに自由を認めるのか。

 そう考えていくと「女性天皇を認めるかどうか」だけで論議する問題でもなく、天皇・皇族制度の根本的な見直しを視野に入れて、考えていくべき問題のような気がしてjきました。だから、「皇子がいないのだから」的な一時の勢いだけで、皇室典範が改正されるのには嫌ですね。そうでなくとも、最近の国会には、勢いだけで法を制定したり改正することが多々あるように見えなすから。

 とは言っても、皇族に子どもが生まれたときに「男の子でよかった」「女の子で残念だった」なんて声が出かねない現行制度は、決してよくないものといえるでしょう。その辺りが以降、どうなるのか、気になることではありますね。

(Written on 2001/12/10)


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