「上村松園展」に行ってきました

上村松園展

 さて、前にこのブログで紹介した「生誕130年記念 上村松園展」に行って来ました。といっても今日行ったわけではありません。かえでさんに「13日までなら『雪月花』が観れますよ」と教えていただいた以上、逃すことはできません!

 上村松園さんの作品群は大きく分けて、市井の女性を描いたものと、歴史や物語に題材を得て描かれたものとに別れると思いますが、私はどちらかというと、後者が好み(もちろん、前者が嫌いなわけではありません)。その中で私が個人的に最高峰だと思っているのが『雪月花』なのです。

 そんなわけで、行ったのは既に10日以上前の話(汗) 名張~斎宮~三輪古代史跡巡りのことを書いていたために、お預けにしていたのですが…最近、このブログは「日記」と名乗りながらも回想録みたいになってますね(笑)

 近鉄電車に揺られて奈良に向ったのですが、会場の松伯美術館の最寄駅をなぜか「西大寺」駅だと思い込んでいました。近鉄の沿線案内を見て「学園前駅」が最寄だと気付き、慌てて引き返し(笑) バスに乗り換えて「大渕橋」のバス停で降りると、池の向こう側に松伯美術館が見えます。元は近鉄の名誉会長の邸宅だったというだけあって、気持ちの良い場所でした。カメラを持参しなかったことを悔やむばかり。

 入場料は学生含む大人1,000円。払った時は正直高いなと思いましたが、それは最初だけ。二つ目の展示室にあった『花がたみ』の本物の前に立つまででした。『花がたみ』は前にも書きましたが、私が上村松園さんに「一目惚れ」してしまった絵です。画集で見てもそれだけの衝撃があった絵ですが、本物はそんな位では済みません。思わずぞくっとして、絵の前に立ち竦んでしまいました。やっぱり来て良かった!

 その『花がたみ』と向かい合わせるように置かれていたのが、重要文化財にも指定されている『序の舞』。上に載せたチラシに印刷されている絵です。「序之舞」は何種類かある能の舞の中でも、最も静かな舞の名前です。表面上は柔らかく優雅なものですが、その内部的な気迫は最も強いのです。上村松園さんの絵『序の舞』はその力を女性の舞姿に見事に昇華されていると思います。全身がそうですが、特に左手のきゅっと締まった様子が好きですね。

 今、大鼓のお稽古で序之舞の入った曲を習っていますが、いつも「お前のは序之舞やない。重苦しい黄鐘早舞(男性の亡霊が舞う舞)や。いいかげん稽古のキャリアも積んできたんやから、もっと考えねばアカンな」と注意を受けています。難しいです。…この絵でも拝みながら、練習しようかしらん。

 次の展示室には待望の『雪月花』。特に「雪」にある御簾の細かい書き込みが大好きです。ガラスケースに張り付くように、細かいところまでじっと見つめてしまいました。もちろん、この絵の最大の魅力はそんな技法にあるのではなくて、絵全体の雰囲気、三幅揃っての統一感ですけれどね。

 この展示室の一番奥には『草紙洗小町』が鎮座してました。この絵の評価も高いようですが、私は松園さんの作品としてはあまり好きではない方です。能を題材にしたものですけれど、それだけに能面・能装束のイメージに引っ張られ過ぎに思えるのです。松園さんは洋画家の須田国太郎さんと並んで、旧金剛能楽堂でスケッチをされていたこともあるそうですが…。

 上の階に上がると、松園さんの略歴と製作風景の写真などが少し展示されてました。そして下絵の展示。やはり大好きな『焔』が今回展示されてなかっただけに、下絵だけでも見ることができて良かったです。今回の図録に収録されていた、解説「大正期における松園芸術~模索の時代~」(鬼頭美奈子さん)には、『焔』についてあまり良くない評価がなされてましたが、私は大好きなんですよね。松園さんが唯一曝け出した内面の激しさですもの。松園芸術の方向性などの研究からすると「外れた作品」だいうのも分からないでもないですけれど。

 ミュージアムショップでいろいろ販売してました。『花がたみ』や『雪月花』のファイルが安かったので、非常に欲しかったのですが、好きな絵であるだけに、使っている内に端が折れたりするのに耐えられないと考え直し、結局諦めました(笑)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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8件のフィードバック

  1. kabukist より:

    行かれたのかしら?お時間なかったのかしら?と少し気をもんでいたのですが、ちゃんと行ってこられていたのですね。
    よかった。
    実は私今日も行っていたのですよ。
    これだけ揃う展示会はなかなかないだろう、あっても近くではないかもしれないと思い、どうしてもと・・・。
    私もどちらかといえば後者の絵の方が好きです。
    一回りした後、序の舞の部屋に戻り、椅子に座って時の経つのも忘れた至福の時間を過ごしました。
    こういう時間、幸せですねぇ

  2. かえで より:

    土曜の朝早くに行きましたが、混んでましたねぇ。
    なので、ゆっくりと拝見できない所は、後で何度も回りました(^0^)
    駐車場の車のナンバーが他府県ばかりでしたもの!!
    「焔」拝見できないのは残念でしたね。能を題材にしている絵では、私これが一番好きです。
    でも、本当に良い展覧会でした。
    松のお庭も素敵でしたでしょう?歩かれたかしら?

  3. ★kabukistさん
    お気に揉んでいらっしゃったのですか?
    申し訳ございません。2週間近く前に、一日をかけて
    上に書いた「大坂歌舞伎展」とはしごして見てきました。
    私は上村松園さんの「生」の作品を見るのは
    今回が初めてなのですが、やはりこれだけ揃う展示会は
    なかなかないのでしょうね。
    一回りした後、好きな作品の前にもう一度戻る…。
    私もしました! やはり『花がたみ』の前でしたけれど(笑)
    幸せでした。なんというか、上村松園さんはその作品を通じて
    私の中にある伝統的な「美意識」を刺激してやまない方です。
    ★かえでさん
    私が行ったのは平日だったはずなんですが、やはり
    混んでいました。とはいえ、ゆっくり拝見できない場所は
    なかったので、土曜日の方がもっと混んでいたのでしょうね。
    駐車場の車のナンバーはチェックしてませんが、
    他府県ばかりですか。松園ファンの広さと情熱の強さを感じますね。
    展示会を見たあと、庭も見て回りました。本当に松が多いですよね。
    まさに「松」伯美術館だなぁ、と思っていたら、
    あとで公式サイトを見ていたら、名前の由来のひとつなんですよね(^^;)

  4. peacemam より:

    実り多い遠征だったようで何よりです。お目当ての絵に会えてよかったですね~。松園さんに限らず、是非是非、色々な画家さんの絵をご覧になってみてください。日本画にしかない風情ってあると思います。

  5. 奈良は関西圏ですし、
    遠征というほどではないのですけれどね。
    足をなかなか伸ばせないのは事実ですけれど(笑)
    高校生の最後のころに画集を見て回った日本画家の方々の
    展示会などありましたら、また、行ってみたいと思ってます。

  6. こいちゃ より:

    こんばんは
    コメント&TB、それにエントリ内にご紹介いただいてありがとうございます。
    序の舞、焔、花がたみ・・・これらの絵から松園に惹きつけられていったように覚えています。
    それから段々いろんなものが好きになっていったような・・
    ^^関西で色々観れる機会がまた早く来るといいですね。
    「序の舞」って難しい舞なんですね。ゆげひさんのブログを読ませていただくと、教えていただくことが多いです。
    後期展示も行ってきましたので、今度はそちらをTBさせていただきますね。

  7. 生誕130年上村松園展(2)後期展示@松伯美術館・奈良

    生誕130年上村松園展の後期展示(27日まで)に行ってきました。リハビリさぼって月曜日に♪
    松園のお孫さんで現松伯美術館館長の上村淳之(あつし)さんのギャラリー・トークに
    あわせていってきたのです。

    松伯美術館については、こちらのエントリ、前期展示

  8. こいちゃさん、コメント&TBありがとうございます。
    こいちゃさんも、最初は『序の舞』『焔』『花がたみ』からですか。
    私は好きなだけで、ホント初心者ですから、これからも、
    機会があるたびに、いろいろ見ていきたいと思います。
    「序之舞」は難しい舞です。
    でも、能の中でも出来の良い曲に使われているように思います。
    必ずではないですが、主に女性の役の舞に使われますし、
    松園さんが理想とされた女性像と重なり合うのだろうなと思ってます。