きもので楽しむ日本の伝統(3)

 最後は「未来」。

 ファッションデザイン学校の生徒たちがデザイン・製作した創作きものによるショー。幕が開くとスモークが炊かれた中からセリが上がってモデルさんたちが登場。…なんていうか、襟とか帯とかにきものっぽい部分があるぐらいで、あとは全然きものではないものが多かったです(汗) 腰に手をあてて歩いて決まるような服って、きものなのでしょうか!? 一番着物らしかったのはデニムのものでしたが…やはり違和感。

★新作狂言『流れ星X』(作・演出:茂山千三郎)
 地球人=茂山宗彦
 太郎ボイボイ=茂山千三郎
 主人ボイボイ=茂山逸平

 西暦2055年、地球は致命的な温暖化の危機にさらされていました。国々は京都議定書なるものを掲げ、自然を守ろうとしたものの、大国の頭領・藪大将が拒んだためにますます温暖化が進みます。住める星を探し求めて星々をめぐる流れものとなった地球人はボイボイ星に漂着します。その星が温暖化を回避した装置・ホシヒエルを持ち帰るため、ボイボイ星人とフライトシミュレーターの勝負をし、勝って持ち帰るのでした。

 ファッションショーの終了後、ヒラヒラしたマントと狂言袴をはいた地球人が舞台を走り回る。どうやら流れ星を表しているようですが、流れるというよりドタドタしてるという印象でした。そして背面の真ん中辺りを向いて止まると「流れて星はまたたきて。~。きらめく間にぞ失せにける」と次第の謡。きちんと地取(地謡が次第を小声で繰り返すこと。狂言の場合は後見)もあるのがかえって変。

 そして携帯電話?を出して、「ただいま、ペガスス座M15星団到着」などを言います。狂言口調ではなく普通。ボイボイ星人はボイボイとしか言わず、主人ボイボイが太郎ボイボイを呼び出す時は、『蚊相撲』などで大げさに太郎冠者を呼び出すのと同じ形式を、「ボイボーイ、ボーイ、ボイボイボイ」と言いながらやってました。最初は身振り手振りで苦労しつつコミュニケーションを計るのですが、途中から地球人が「翻訳頭巾」をかぶると、以後は普通に演じられました。

 フライトシミュレーターによる勝負も基本的には相撲の形式で、太郎ボイボイが行司をしたり、一度負けた主人ボイボイが「勝負は三番のものじゃ」と言ったりします。負けた後、主人ボイボイが太郎ボイボイにフライトシミュレーターで襲いかかるのも、『文相撲』と同じですね。ちなみに勝った地球人は、「勝ったぞ、勝ったぞ。キュイーン」と飛び去ってました。

 ゲラゲラと大爆笑させていただきましたけれど、出演者が狂言方で、ところどころに狂言の形式を使っているというだけで、狂言でやる意味は感じられませんでした。「未来」というテーマも、時代が未来だ宇宙だ、地球温暖化だ、勝負がフライトシミュレーターだ、と小手先だけを未来にしたというだけ。

 こんな新作を演じて見せるなら、例えば、ホールという場を行かしたり、もっと照明をうまく使ったりした新演出で古典の演目を演じるとかの方が良かったと思います。新作にしても千五郎家にはストックがたくさんあるのですから、もっと良いものはなかったのでしょうか…。

 千五郎家でも最も好きな千三郎師が構成・演出を担当された会だっただけに、不満を感じるものだったことが残念でなりません。今回は狂言ではなくて、狂言風「きものショー」だったんだ、と納得させることにはしますけれど…。


 『流れ星X』が終わると、出演した千五郎家一門と、京都染織青年団体協議会の方々、そしてファッションショーに出演したモデルさんたちや「きものの女王」たちが出てきて、挨拶。男性陣では千五郎師の羽織袴姿が一番カッコいい。次が松本薫師かな。やはりある程度お年を召されている方がきものが似合うんですよね~。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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3件のフィードバック

  1. ナデシコ より:

    なんか会場の雰囲気わかります(笑)
    ナデシコもモダン着物って苦手です。
    あと東京の原宿とかで流行ってる勘違いアンティーク
    着物集団。
    古いものってその時代にしかない魅力あるし私も昔の
    紋様好きだけど、目立ちたいからってやりすぎるのは
    いかがなもんか?
    古いものを生かしつつスッキリとさりげなく着こなし
    たいですよね。

  2. そら より:

    またもやニアミス(笑) 私も行ってまいりました@きもので楽しむ日本の伝統。ゆげひさんの和服姿、拝見したかったです。
    ゆげひさんも書いていらっしゃいますが、新作狂言『流れ星X』の配役は逆です。流れ者が宗彦さんで、主人ボイボイが逸平さん。
    確かにウケてはいましたけど、京都議定書だ温暖化だと時事問題をテーマにしたシニカルな狂言にするのなら、もう少し温暖化について掘り下げてから狂言にするべきでは。単に気温を10℃下げる装置を開発したから星が救われた、なんてのは…。「翻訳頭巾」も、日本昔話の「聴き耳頭巾」と同じ機能ですし。スターネットオークションで落札したミンテンドーのゲームで勝負というのも…。将来に長く残せる面白い新作狂言を千三郎さんなら作れるんじゃないか、と思うだけに残念でなりません。
    過去のきものショーの小袖は渋くて良かったですけど、未来の創作着物ショーは、いただけませんでしたね。50年後にああいう着物を流行らせたいと本気で染色青年団が考えているんでしょうか。私も細かいしきたりに囚われるのは嫌ですけど、着物生地というだけで、和服の良さが出ていないものが多かったですし、モデル歩きもどうだかなー。

  3. ★ナデシコさん
    不思議な空間でした(笑)
    古風というか、シンプルなのが私は好きなのですよね。
    ゴチャゴチャしているより、スッキリとした方が
    決まると思いますし。
    洋服でも同じですけど、和服だとますますその傾向が強くなります。
    >>原宿では勘違いアンティーク着物集団。
    そんなのがいるのですか!? 疎いのでしょうか、私(汗)
    ★そらさん
    またニアミスですね。私の着物姿は…見るほどのものではないですよ(笑)
    叔父にもらったものを着ているだけなんですが、そろそろ新しい
    着物が欲しくて、ずっと金勘定をしています(笑)
    新作狂言『流れ星X』の配役、ありがとうございます。早速直しました。
    七五三師の息子さん2人は、私はちょっと苦手でなんです…。
    細かいところはともかく、温暖化問題を取り扱ってるのか、と思わせつつ
    「ホシヒエルで気温を10℃下げる装置を開発したから星が救われた」
    というのは、ちょっと安直過ぎますよね。狂言って表面的には簡単でも
    深く見れば見るほど深い作品が多いですから、新作でも、狂言を名乗るなら
    そういう"心"こそ繋げるべきなのに、と感じました…。
    表面的な形式を真似ても仕方ないです。
    創作着物ショーなど、50年後にも着物を伝えていくために、いろいろやろうと
    思っていることは分かるのですが…。会長が言っていた「もっと着やすくする」
    とかは当然勧められるべきことでしょうね。着付け教室に通わなきゃ着れない
    ってのはちょっと辛いですよね。