「餅の風流」付『翁』

大槻能楽堂創立70周年記念 新春能

 1日に篠山春日神社で見た『翁』に続いて、昨日はほぼ毎年通っている大槻能楽堂新春公演で『翁』を見てきました。今年は大槻能楽堂創立70周年にあたり、珍しい「餅の風流」付。

大槻能楽堂創立70周年 新春公演
◆1月3日(火)14時~ 於・大槻能楽堂(大阪市中央区)
★観世流『翁』「餅の風流」
 翁=大槻文藏
 三番三=茂山千五郎
 千歳=武富康之
 面箱=茂山童司
 風流シテ(餅の精)=茂山千作
 風流アド(仙人)=茂山七五三・茂山宗彦・茂山茂・茂山逸平・網谷正美
 笛=藤田六郎兵衛 小鼓=大倉源次郎・荒木建作・上田敦史
 大鼓=山本孝 太鼓=中田弘美
 地頭=泉泰孝
 風流地頭=茂山千之丞
★観世流能『羽衣-彩色之伝』片山慶次郎
(※能『羽衣』はシテのみ)

 「風流」というのは「『翁』のなかで狂言方が演ずる特殊的芸態で、本狂言・間狂言および三番叟とともに、狂言の一部門をなす」『能・狂言事典』)ものです。めったに演じられることはありませんが、大蔵・和泉両流で合計31番あるとか。

 舞台の進行としては、三番三の揉之段までは通常と同じ。揉之段が終わって面箱から鈴が渡され、鈴之段を舞おうとしたところ、囃子が狂言アシライ。「囃子を間違うた。これでは舞われぬ」と三番三が言います。その間に幕から風流地謡がゾロゾロと橋掛りに並びます。

 すると、幕から杵と臼を持った仙人たちが現れて、三番三とお互い何者かと名乗りあった後、「めでたい時には餅をつく」と言って餅をつき始めます。すると、その餅つきに誘われて餅の精が現れます。

 餅の精は始め、白い着物を被いていたのですが、その下から現れた出立は、ふっくらした感じの全身白装束に年齢のためか面はかけず白垂(能『歌占』のシテみたい)、そして頭には鏡餅(笑) …これ「存在自体が狂言」と言われることもある茂山千作師だから良いんですよね~。他の役者だったら、きっと「変」なだけ。

 三番三は餅の精にも見せるために、改めて鈴之段を舞い、そして終わると、太鼓が打ち出し、四季折々の餅のことを述べる謡に載せて餅の精が舞います。春は鏡餅、夏は涼しの餅…云々。舞い終わると「これまでなり」と帰ろうとしますが、三番三と面箱に引き止められ、餅の精はこの場に留まるのでした。

 ただ一点、残念だったのは風流地謡に一部あやしい箇所があったこと。しっかり覚えていないんじゃ…。明治以降、2度目で13年ぶりの上演だということですから慣れないのは分かりますけれど、慣れないことをするなら、素人でも念には念を入れて準備するものです。ましてプロなんですから。

 しかし、いかにも烏帽子・狩衣姿が似合う大槻文藏師や、颯爽とした千歳の舞を見せて下さった武富康之師などが醸し出された、思わず平伏したくなるような荘重さ。そして、そこから一転して「楽しうなるこそ。めでたけれ」という狂言の祝言の笑いに繋がる、めでたさにめでたさを重ねた華やかな舞台で良かったですラッキー

 能『羽衣』は綺麗だったなぁ(特に面)…というぐらいで、あまり印象に残ってません。「彩色之伝」の小書が付くと、羽衣を返してもらうとすぐ舞に入って、私の大好きなクセが抜かれてしまうのが残念で…。盤渉の高い調子になる笛の音は好きなんですけど。


 ところで今回の客席は人の数が多かったこと! 私は500円多く出して、自分の席を予約してましたから座れましたけれど、通路の通り抜けが難しいほどの客の多さでした。「入るだけ入れる」が大槻能楽堂の方針のようですが、いらん心配ながら、事故が起こったら怖いなと思ってしまいます。…まあ、客席が寂しい時もあるわけで、それに比べれば喜ばしいことなんですけれどね~。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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4件のフィードバック

  1. かえで より:

    4日はそんなに混んでませんでしたよ~!
    「プロなんかだらもっと頑張って欲しかった」
    私もそう思います。
    今日も、私には不満がありました。
    せっかくの「翁」なんですが、ある1点が気になってしまって
    他を見れなくなりました(^^;)
    「翁」なんですから、体調が悪ければ代わっていただくとか他に方法があったと思います。
    でも、楽しいことも!
    大鼓が二の松のところへ行かれたのは吃驚!
    しばらくは座って打っていらっしゃいましたが、立ち上がり
    舞台まで歩きながら打たれて、これまた後ろへ下がって床机にかけられてと。
    すっごいパフォーマンスですよね?翁でこんなの初めて拝見しましたもん。
    まあ、いろいろと文句もありますが、二日間続けて新春能を拝見できましたので、今年は良い年になりそうです(^^)

  2. まあ、少々残念なことはありましたけれど、
    いかにもめでたい舞台でしたよね(^^)
    千作師ならでは、だと思います。
    かえでさんは今日も続けて大槻能楽堂新春公演に通われたのですね~。
    大鼓が二の松まで歩きながら打つ…というのは
    「打掛」でしょうか。昔、石井流の家元が『翁』に遅刻して、
    切腹覚悟で三番三をお幕から打ちながら走り出たところ、
    「面白い」と評価され、重い習として定められたという…。
    2003年の大槻能楽堂新春公演で、
    山本孝師が三番三が始まる「揉出シ」の部分で舞台に出ながら打ち
    床机に戻るということをされたことがあります。
    「打掛」と小書にありました。
    流派が違うからか二の松には行かれませんでしたが。

  3. 挿頭花 より:

    あけましておめでとうございます。
    そして、サイト開設3周年、おめでとうございます!
    (御挨拶が遅れました。)
    こちらでは色々と勉強させていただき、感謝しています。
    今回も、気になっていた『餅の風流』のレポ、ありがとうございます!!
    なるほど、頭に鏡餅・・・千作さんの笑顔が目に浮かぶようです(笑)。鈴の段のはずがアシライというのは、ぜひノリツッコミをしてほしいものです(大笑)。(あわわ、想像が暴走してます。)
    『打掛』の話は、山本哲也さんのサイトで触れられていましたね。遅刻の言い訳が重習になってしまうなんて、笑い話のようですね。おめでたいので、何でもアリ、という事でしょうか。
    今年も素晴らしい舞台に出会えますように。

  4. 挿頭花さん、あけましておめでとうございます。
    そして、サイト開設3周年のこと、ありがとうございます。
    珍しいものだけに、舞台の進行を書いておく意味が
    あるかと思って書いてみました。
    「風流」には、大きく分けて、
    翁が帰った後に千歳(面箱)を相手に演じるものと、
    揉之段の後に、三番三(三番叟)を相手に演じるものが
    あるそうですよ。「餅の風流」は後者なんですね。
    「打掛」のことは私も山本哲也師のサイトで読みました。
    やっぱりそうだったんだ、と思って納得です。
    何も知らずに見ると、びっくりしてしまいますよ。
    切腹覚悟で、文字通り命を掛けて打ったのが
    良かったのではないでしょうか(笑)
    今年も宜しくお願いいたします。