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「白泉社」はマンガの出版社です。『花とゆめ』ほかの雑誌を発刊していて、主に女性向けのマンガを出しています。そんな物が能楽関連の本? はい、マンガなのです。能楽師を取り扱ったマンガです。 主人公の榊原憲人さん(なんとなく敬称付けたい)は、母方の祖父であるシテ方能楽師・相葉左右十郎の元で修行中の書生23歳。彼の生活を淡々と描いているマンガがこの『花よりも花の如く』です。本来は成田美名子さんが前に描いていた『Natural』というマンガの外伝から独立しました。 基本的には憲人さんの生活を、彼の心のセリフとともに淡々と描いていっているだけといえるのですが、その感想が、私が能のお稽古を受けていて、特に去年、能のシテを演じさせていただいた際にいろいろ思ったことに通じるものがあったり、こんな考え方もあるのだと感心させられたり。作者の成田美名子さんは銕仙会などの能楽師の方々にとても詳細な取材をした上で描いてらっしゃるみたいなのですが、とても舞台に対する実感がこもったマンガになっています。 何よりも能の絵がたくさんあって眺められるのが、能マニア化してしまった私にはもうたまりません(笑) 第一巻の「鬼の栖」の最後、憲人さんのセリフ だって今日もあそこへ通える。天人や幽霊 鬼や神様が闊歩する三間四方の大宇宙へ を読んだとき、純粋に羨ましいと思いましたもの。能は見ても面白いものですけれど、自ら演じたり囃したりする魅力もまたたまらないものがあります。 そして、能楽師を主役としているので能のマンガなのは間違いないのですけれど、成田美名子さんのマンガ全体に共通している、「人間」を描く作品でもあるように感じます。3巻にて『二人静』の 思ひ返せば古も恋しくはなし という言葉について、憲人さんと渡会さんが話すシーンを読んだ時には、思わず涙が少しこぼれそうになりました。このマンガはそれだけ私の感性が刺激され、同調してしまうんです。能を通じて、「人間」として演者が成長していくなんていいなあ。 (2004/03/16)
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